コロナに関連して従業員を休業させた場合、給与の支払いはどうするべきか?

Q1 新型コロナの感染防止のため、在宅ワークが推奨されていますが、当社には在宅でできる仕事もないので、職員を半数ずつ1日おきに出勤させています。職場で密になることを避けるためです。この場合自宅待機にした日の給与は支払わないといけないのでしょうか。60%ほど支払えば良いとも聞きましたがどちらが正しいのでしょうか。

(答)まず、コロナという「風邪」で社会全体が幅広く活動を停止するという経験は過去にはありませんので、休業した場合、給与をどうすべきかは実は明確ではありません。例えば地震や台風で工場が倒壊してしまったら、従業員は休業する他なく、その場合は就業規則や労使協定、労働契約に特別な定めがない限り使用者は給与を支払う必要はありません。しかし、今回のように、物理的に仕事ができなくなっているわけではない場合、給与を支払わないといけないかどうかの見解は専門家の内でも別れています。そこで考え方の枠組みを説明します。キーワードは「責めに帰すべき事由」です。

 まず、基本的なルールは民法536条で、民法では全額支払うか一切支払わないで良いかのどちらかです。ここには60%という定めはありません。60%支払うというのは労働基準法26条です。まず、基本である民法は次のとおりです。

①従業員が労働に従事しないことについて、使用者に「責めに帰すべき事由」がある→使用者は給与を全額支払わないといけません。
→100%支給

②従業員が労働に従事しないことについて、従業員に「責めに帰すべき事由」がある→使用者は給与を全く支払う必要がありません。
→0%支給

③従業員が労働に従事しないことについて、使用者にも従業員にもいずれにも「責めに帰すべき事由」がない→使用者は給与を全く支払う必要がありません。
→0%支給

 つまり、民法では使用者に「責めに帰すべき事由」があれば給与は全額支払わないといけないし、逆に「責めに帰すべき事由」がなければ一切支払わなくて良いとされています。

(問1)新型コロナの感染拡大は使用者の責任ではありません。当然従業員の責任でもありません。また、使用者である私には従業員のコロナ感染を防止する安全配慮義務があると思います。そうすると密を避けるため半数を1日おきに自宅待機にすると判断したことについて私に責任はないので給与の支払い義務はないですよね。

(答)そうでしょうか。同じ安全配慮でも、1日おきに自宅待機にするだけではなく、座席の間を広げるとか、シールドを置く等自宅待機にしない方法もあるでしょう。そうすると、自宅待機は使用者の責めに帰すべき判断だから、給与は全額支払うべきだという考え方が多いと思います。

(問2)それでは、従業員がコロナに感染したが無症状なので自宅待機させたらどうでしょうか。緊急事態宣言に伴い休業要請があって休業した場合はどうでしょうか。

(答)いかに無症状でも感染しますから、出社させないことについて使用者側に「責めに帰すべき事由」はないので給与を支払う必要がないという意見が多いでしょう。緊急事態宣言に伴い休業要請があって休業した場合も同様でしょう。

(問3)それでは、従業員がコロナ感染者の濃厚接触者であることが分かって自宅待機させたらどうでしょうか。あるいは従業員の居住する地区からコロナ感染者が出たらどうでしょうか。また、緊急事態宣言ではなく、自治体が法令に基づかず休業要請をし、当社が休業したらどうすべきでしょうか。

(答)難しい問題です。つまり、使用者に責めに帰すべき事由があるともないとも言えないような場合です。ここで適用される可能性があるのが労働基準法26条です。本規定には「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と定められています。これが休業手当です。

 不思議な規定です。「使用者の責めに帰すべき事由による休業」なら、先の民法の①に該当し、給与は60%ではなく全額支払わないといけないはずです。民法と同じ「責めに帰すべき事由」という言葉を使っていますが、不可抗力やそれに近い事由でない限り、民法上は「責めに帰すべき事由」がないので給与を支払わなくても良い場合でも、労働基準法では、「責めに帰すべき事由」を使用者に厳しく判断し休業手当として60%は支払わなければならないことにしたのです。不可抗力とまで言えないなら、従業員個人を休ませても、会社自体を休みにしてもとにかく60%は支払ってくださいということです。労働基準法は60%支払っておけば良いように民法を減額したものではありませんから、使用者の責めに帰すべき事由があることが明白なら、当然給与は全額支払わないといけませんので誤解しないよう注意してください。

(問3)のような限界的な事例では、労働基準法に従い、60%は支払うべきだと私は思います。いかにコロナによる休業でも、給与を支払わなくても良い場合もありますが、60%は支払うべきであると考えられることが多く、100%支払うべき場合もあるのでそのことはご理解いただきたいということです。

 厚生労働省がホームページで「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」を公表しています。なお、就業規則や労使協定、労働契約で60%以上支払うと決まっている場合はそれに従ってください。

Q2 従業員を守りたいとは思いますが、コロナで当社も倒産の危機に直面しているのに、仕事を休ませている従業員に60%もの給与を支払うのは辛いです。雇用調整助成金という制度を聞きましたがどのような制度なのですか。

(答)雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀無くされた企業(使用者)が、労働者を休業させるなどして雇用を維持した場合に、休業手当相当額の一部(又は全部)について企業が助成を受けることができる制度です。コロナの対応に苦労されている皆さんは広く活用できる制度ですが、本説明を書いている6月初め時点では、60%以上の休業手当等を一旦実際に従業員に支払わないと助成金はもらえません。資金がない中で従業員にまず休業手当等を支払うのは大変でしょう。国会では従業員に助成金を直接支払うようにしようという意見も出ているそうですので、もしかしたら変更されるかもしれません。なかなか申請手続が大変で、要件も厳しく、利用し難いという批判がありますが、厚生労働省のホームページによりますと、令和2年5月28日時点で累計申請件数が約6万5000件であるのに対し、累計支給決定件数は約3万2380件だそうです。社会保険労務士さんも相談を受けて大変だと聞いていますが、相談してみられてはいかがでしょうか。