民法の大改正が施行されました 保証人になる時は慎重に!

Q1 民法が改正され,本年(令和2年-2020年)4月1日から施行されていると聞きましたが,私達の生活に影響がありそうなものは何でしょうか。

(答)民法は私的な取引等私的な生活関係に関する基本的な法律です。この中に「債権法」と言われている規定があるのですが(「債権法」という法律があるわけではありません。民法の一部です。)、そこが2017年5月に大幅に改正され、2020年4月1日から全面施行されました。明治時代に作られて以来の「大改正」です。民法の中には相続に関する規定もあり、これは「相続法」と言われています(これも民法の一部です)。こちらも2018年7月に結構大きな改正がなされ、順次施行されてきたのですが、相続法改正も2020年4月1日から全面施行されています。量が多く、とても全部説明することはできませんが、私個人は保証制度の改正に興味を持っていますし、みなさんに身近な問題だと思いますので、ここではその紹介をさせていただきたいと思います。他の改正については、折に触れて説明させていただきます。

Q2 そもそも保証人になってくれと頼まれることなどあまりないように思いますが、私達の生活に関係があるのでしょうか。

(答)そうでしょうか。成人した子供さんが独立してアパートを借りる際に連帯保証人になるよう頼まれたことはありませんか。高齢の親が老人ホームに入居するときに保証人を頼まれることも多いですよ。

(問)これも保証人なのですか?私も子供がアパートを借りる時に、賃貸借契約書に署名捺印しましたが、私は子供に何かあった時のための連絡先になっているだけだと思います。

(山元)子供さんに賃貸借契約書を見せてもらってください。あなたが「連絡先」になっているだけのこともありますが、99%の賃貸借契約書では「連帯保証人」になっています。

(問)連帯保証人になっているからと言って、家賃は月4万円ですし、子供も払うはずですから、大した金額にはならないのではないですか。

(山元)保証人は、お子さんが明け渡した時点で支払っていない賃料全部と原状回復費用の支払い義務があります。長期間延滞していたり、アパートを汚していたりして原状回復に多額の費用を要する場合、100万円を超える請求を受けることすらあります。同じ連帯保証でも100万円の確定金額の貸金の保証人なら、連帯保証人として責任を負う金額は、最大でも100万円と利息や遅延損害金ですからまだ責任を負う金額の予想が付きます。しかし、アパートの賃借人の連帯保証人となると、取引から生じる債務全額について責任を負いますから、責任の限度額が分かりません。予測のつかないとんでもない金額になることがあるのです。このように、特定の債務だけではなく、一定の範囲の取引から生じる債務を保証するものを「根保証」と言っています。「根保証」については、責任の限度額(極度額と言います)を契約書等の書面で明示しておかなければ保証の効力がないことになりました。つまり、契約書の中に「200万円の限度で責任を負う」等と極度額が書いてなければ保証人には一切責任はなく、逆に書いてあれば原則としてその金額までの範囲で責任を負うことになりました。

(問)私が息子のアパートの賃貸借の保証をしたのは2018年のことで、極度額は書いてありませんから、私の保証責任は4月1日からなくなるのですか。

(山元)そんなことはありません。極度額の記載がなければ保証の効力がないのは、2020年4月1日以降に締結される契約だけです。その前に既に結ばれている賃貸借契約については極度額が記載してなくても、保証人は責任を負います。逆に、貸しアパートを経営しておられる人は今後、連帯保証人になってもらうなら、極度額を契約書に明記しておく必要がありますので注意してください。

 それと、根保証について極度額を定めて書面を作成しないと効力がないという改正は、貸金等の契約について言えば今から16年前の2004年に行われ、2005年4月1日に施行されています。今回は、貸金等だけではなく、あらゆる取引の根保証について個人保証する場合に適用されるよう拡張されたものです。これまででも、貸金等の根保証人になって困っておられる人がおられたら、本当に自分には保証責任があるのか弁護士等専門家に相談してみてください。

Q3 私の親友が経営している会社が最近の経済情勢のため危機に陥っていて,事業資金の借入の保証人になってくれないかと相談を受けています。人情からすると助けてやりたいのですが,保証人となることは怖く,迷っています。民法改正で保証人の責任が限定されているのでしょうか。

(答)2020年4月1日から、事業資金の借入について、個人が保証人となる場合、一定の期間の間に、一定の方式を満たした公正証書を作成しなければ保証人にはなれず、なっても効力がないことになりました。

(問)そうですか。公正証書まで作らないといけないのですか。そんなに大変な手続きは嫌だと言って断りやすいですね。

(山元)注意していただきたいのは、個人が、事業資金の借入のための保証人になるための要件が厳格化され、保証人になるかどうか慎重に判断するチャンスができたということで、公正証書まで作成して保証人になってしまえば、保証人として債務の支払い義務があることは従来と同じです。

 私は弁護士となってから満35年になりますが、弁護士になって数年してから、第三者のために保証人になるべきではないと強く思うようになりました。自分が経営している会社の保証人になることは避けられないことがほとんどだと思いますが、第三者のために保証人になることには経済的には何のメリットもありません。しかも、第三者には、借主が本当に支払うことができるのか分からないでしょう。保証人になったために破産した人もたくさん見て、本当に悔しく思いました。あなたが保証人になってあげないと親友は貸付が受けられず倒産してしまうかもしれません。でも、万一保証しないために親友が貸付を受けることができず、倒産したとしても、その時点であなたが保証債務を負っておらず、経済的に自立していれば、倒産後、親友の生活を支援してさしあげることができますよね。倒産後、生活を支援してくれる人がいると立ち直っていくうえで非常に助かります。倒産後、助けてくれる可能性のある人を倒産前に保証人にしてしまうということは、借金しても倒産した場合、親友に助けてもらえないばかりか、ものすごく恨まれることになります。昨今の厳しい経済情勢の中で、貸付を受けるために親族や親友に保証人になるように頼もうと考えておられる人がおられたら、立ち止まって考えてください。その借金で本当に立ち直れますか。今では融資制度によっては会社の代表者すら保証人にならなくて良い場合もあります。第三者の保証人の必要がない他の融資制度がないのか、そもそも支援してくれる制度がないのか等、県・市その他公的機関や金融機関に十分に相談してください。

以上