婚姻費用の計算方法

Q1 私の息子(40歳)には妻(嫁)と10歳の子がいるのですが、何かあったらしく息子は一人で家を出て別居してしまいました。息子から妻に生活費を送らせないといけないと思うのですが、いくら送るべきかどうやって計算すれば良いのでしょうか。ちなみに息子夫婦は共稼ぎです。

(答)生活費を計算するためには事情をうかがう必要がありますので、ぜひ息子さんにどこかで法律相談を受けるようアドバイスしてあげてください。ただ、ご心配でしょうからここでは一般論を説明します。

 このような夫婦間の生活費のことを「婚姻費用」と言います。「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない(民法752条)」と定められています。

(相談者)え!そうするとそもそも夫婦は別居してはいけないのですか?

(山元)民法上は同居義務がありますが、実際問題として強制的に同居させることはできませんから、経済的に同居しているのと同じような状態になるよう婚姻費用を計算して負担すべき夫か妻に負担していただいています。

(相談者)息子だけが婚姻費用を支払わないといけないのですか。

(山元)夫である息子さんだけが婚姻費用を支払う義務があるわけではありません。夫婦双方に婚姻費用を負担する義務があります。ただ、双方の収入から計算してみて婚姻費用を負担するべき金額が0円になれば、その配偶者には、収入に変化がなければ支払い義務がないことになりますし、その配偶者がもらえるという計算になれば、その人は「権利者」ということになります。

 普通に結婚生活をしている場合、きちんと協議しないとしても、なんとなく次のような順番で計算して生活しておられるのではないでしょうか。

①夫も妻もそれぞれ自分の収入から自分に必要な費用と自分が貯めたい金額を差し引く。ここで夫婦で議論になることもあるでしょう。

②残りを二人の生活費として家賃・電気・ガス・水道代及び家族の衣服費、食費・遊興費・子供の学費等にあてる。

 こんなことを考えるのが面倒なので、給与の全額を夫か妻に渡し、「小遣い」をもらうという人もおられるかもしれません。

 この考え方の根本には、結婚している以上夫婦及び子供は全員同じレベルの生活をするべきだという考え方があります。先の民法752条で扶助義務が定められていますが、民法877条には「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」とされています。しかし、夫婦と自活する前の子供(こういう子を「未成熟子」と言います)の間の扶養義務とそれ以外の扶養義務は質が違うと考えられています。夫婦と未成熟子の間の扶養義務は家族みんなが同じレベルの生活をするという意味で「生活保持義務」と考えられており、それ以外の兄弟間等の扶養義務は、自分の生活に余力があれば相手の最低の生活費の不足分を負担する「生活扶助義務」と考えられています。夫婦と未成熟子の間の生活保持義務は自分の生活が苦しくても負担しなければならないような義務と考えられているのです。

Q2 婚姻費用の計算方法の基本的な考え方はどのようなものですか。

(答)夫婦及び未成熟子の間には生活保持義務があるという理念に基づいて計算します。

①夫と妻それぞれの収入を把握します。これは給与所得者なら居住地の市町村でもらえる所得証明の総所得の金額です。例えば息子さんは年400万円、妻は年200万円とします。

①-2 それから税金等の公租公課や、仕事をするうえで必要な被服費や交通費・交際費等の職業費及びその他生活する上で必要な特別経費を差し引きます。これらを差し引いた後の金額を「基礎収入」と言います。いろいろ差し引くと、この相談では夫は168万円、妻は86万円となるものとします。徹底的に計算するなら、これを実際の金額で計算することになりますが一般的には収入に応じた標準的な割合が公表されており、その割合で計算しています。自営業者と給与所得者ではこの割合の数値が異なっています。

②夫の基礎収入168万円と妻の基礎収入86万円の合計254万円が、同居していれば夫婦が協力して使うことができる収入だと考えます。

③夫婦と子が同一レベルの生活をするのですから、この生活費を両親とご相談では10歳の未成熟子の3人で分けます。ただし、子供には大人と同一の生活費まではかからないので、子供に必要な生活費は親の生活費の何%と見るか、これも決めないといけません。これも年齢に応じた標準的な「指数」が公表されています。10歳なら標準の指数は約60%程度なのでここでは60%として試算します。

④ ②の254万円を夫1対妻1対子供0.6の比率で割り付けます。そうすると夫と妻の分はそれぞれ254万円÷(1+1+0.6)≒98万円で、子の分は254万円÷(1+1+0.6)×0.6≒58万円です。妻と子が同居していますから、二人分の生活費は98万円+58万円=156万円です。

⑤妻にはこれに対して86万円の基礎収入がありますから、156万円-86万円=70万円が夫が妻に払うべき婚姻費用となります。月額5万8000円程度です。

⑥実額でこれを計算すると大変な労力が必要なので、標準的な計算ができるよう、総収入から基礎収入を算定する割合の数値や子供の生活費の比率(指数)が公表されています。

 以上は婚姻費用ですが離婚した場合等の養育費も未成熟子に親と同レベルの生活をさせるという考え方で計算するという基本原理は同じです。

Q3 標準的な数値に従っても計算は難しいですね。実際に息子は妻にいくら払うべきか見当だけでも付ける方法はありませんか。

(答)2003年に、縦軸に一方配偶者の収入、横軸に他方配偶者の収入を置き、子の年齢、人数毎にグラフにし、縦軸と横軸の交わったところの金額が婚姻費用の目安となる簡易表が公表されて使用されてきました。養育費も同様なものが作成されました。しかし、生活の実態が変化してきたこともあり、令和元年12月に、標準的な基礎収入割合の数値や子供の生活費指数が再計算され、これに基づく簡易表が公表されました。「裁判所」「養育費・婚姻費用算定表」というキーワードでネットを検索していただけば、裁判所のホームページからグラフや計算方法の説明が出てきます。いくら払うのか見当が付かないために婚姻費用や養育費が支払われないのでは困ります。具体的な金額はご相談いただきたいのですが、一つの目安としてこの算定表を活用していただきたいと思います。

以上