職場でパワーハラスメントがないよう体制を整えましょう

Q1 パワーハラスメント防止法ができたと聞きましたが、どういう法律でしょうか。

(答)令和元年6月に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)が改正され、第30条の2で従来法律にはなかったパワハラの定義が定められるとともに、使用者(事業者)はパワハラに対して就業環境が害されることのないよう、必要な措置を取らなければいけないこととなりました。(厚労省が指針を発表しています)。これがパワハラ防止法と言われています。

(問)え!当社ではそんな準備は全然していませんが。

(山元)大企業では2020年6月1日から適用されていますが、中小企業では2022年4月1日から適用されます。違反しても罰則があるというわけではありません。

(問)当社は中小企業だと思いますが、どこまでが中小企業なのですか。

(山元)中小企業とは、中小企業基本法第2条で、卸売業(資本金等1億円以下、従業員数100人以下)、サービス業(資本金等5000万円以下、従業員数100人以下)、小売業(資本金等5000万円以下、従業員数50人以下)、製造業等その他(資本金等3億円以下、従業員数300人以下)と定められています。

(問)セクハラとかマタハラとかいろいろハラスメントが出てきますね。法律の定めるハラスメントに当たらなければ、我々使用者としては特に対策をしなくても良いのですか。

(山元)そうもいきません。労働安全衛生法第3条に「事業者は、…快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」と定められています。使用者としては快適な職場環境の実現に努めなければいけません。これに違反したからといって罰則はありませんし、直ちに従業員から訴えられるという性質の義務ではありませんが、特に「なんとかハラスメント」と名付けられるようなものでなくても、職場でハラスメント等がないように努める必要があります。まだ適用されていませんが、パワハラ対策はだんだん整えていっていただきたいと思います。

Q2 何がパワハラになるのですか。

(答)労働施策総合推進法第30条の2でパワハラについて「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定められました。

(問)分かりにくいですね。どういうことですか。

(山元)大きな要素は、①優越的な関係を背景としていること、②業務上必要かつ相当な範囲を超えていることの2つです。「就業環境を害する」という要素もありますが、この2つの要素が大切です。

(1)まず「優越的な関係」があることです。職場でも対等な立場の者同士が嫌がらせをした場合、基本的には当人同士で解決を図ることができるはずです。しかし、職務上の地位が上とか先輩等上位の者がした場合は、当人同士での解決が困難でしょう。仮に同僚や部下であっても、そちらの方が業務上必要な知識や経験が豊富で、仕事をするにはその協力を得るしかないという場合は、「優越的な関係」となる場合もあります。優越的な関係は職務階級の上下だけで決まるものではありません。

(2)次に「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」です。例えば工場で、作業員が手を出したら危ないような機械に手を出した時、上司が大声で「手を出すな!」と注意したとしてもそれはパワハラではありません。業務上必要かつ相当なものだからです。しかし、それで頭を叩くとするとこれは暴行ですから、そのような必要性や相当性があるとは考え難く、パワハラとなるし、場合によっては刑法の暴行罪や脅迫罪が成立して処罰されることもあるでしょう。

(3)厚生労働省はこれを踏まえて身体的な攻撃等6つの類型を例示しています。詳しいことは、厚労省のホームページでご確認いただきたいのですが、私が相談を受けた経験では、6類型の中で「精神的な攻撃・上司が部下に対して人格を否定するような発言をする」という類型が、指摘された側にとって非常に納得し難いものであると感じています。「人格否定」と言いますが、そもそも、あなたは「職員の人格を否定してやろう」などとお考えになったことがありますか?例えば「お客様には笑顔で敬語で対応しましょう」というのは、通常の職務上の指導です。しかし、「お客様でも誰でも人には敬意を持って接するべきだ」とあなたが考えていて、職員もそう考えているだろうと思って、「人には敬意を持って接しなさい」と指導等をしたことはありませんか。ここで、その職員が「人間は対等なのだから、みんなに敬意を持つ必要はない」と考えている場合、このような指導は、指導の内容やその時の態度によっては職員の人格を否定するものであり得るのです(これがパワハラと認定されることは滅多にありませんのでご安心ください)。ただ、この職員側の考え方は間違っているのでしょうか。それこそ「みんなちがってみんないい」と立ち止まって考えることも必要です。

 優越的な立場にある時は、心のどこかに「相手の生き方、考え方を改めさせようとしてはいけない」と思っておくことが大切だと感じています。

Q3 パワハラ防止のため、使用者としてはどうしておけば良いのでしょうか。

(答)パワハラで就業環境が害されることのないよう、相談体制を整えるなど防止策を定めないといけません。公的機関も研修を準備していますので、機会があれば受講されることをお勧めします。