ネット上で誹謗中傷された

Q1 当社について、店員が暴言を吐いたとか購入した商品が欠陥品だったとかおよそ全く身に覚えのないことを、匿名でネットのサイトに掲載されました。信じる人もいますから本当に来客が減り、困っています。周りの人に対して疑心暗鬼となり、人間不信になりそうです。業務妨害だと思うのですが、このような記事の掲載をやめさせる方法はないのでしょうか。

(答)まず、ネット上への書き込みとはどんなことをしているのか、そもそもその誹謗中傷をあなたが読むことができるのはなぜかというネットの基本的な構造について考えてみましょう。この問題については私は素人ですから、以下は私なりに解説等を読んで理解した内容です。私は「企業を守る ネット炎上対応の実務 弁護士清水陽平 学陽書房」「闇(ダーク)ウエブ 文春新書」等を参考にさせていただきました。 まずキーワードは「プロバイダ」です。

 アイフォンやスマートフォン等携帯電話でLINEをしたりメールを送ったりグーグル等の検索ができますが、それは携帯電話を購入する時点でドコモ、KDDI、OCN、ソフトバンク等のプロバイダとネットに接続するための契約をしているからです。パソコンでもネット接続する場合はプロバイダと契約します。自分のプロバイダはどこか知らない人も少なくないくらいこの契約は無意識に行っています。ネットを利用するために、最初に契約するプロバイダをインターネットサービスを提供するプロバイダという意味で「インターネット・サービス・プロバイダ=ISP」とか「アクセス・プロバイダ=AP」と呼びます。これがネット利用者とネットの世界をつなぐ第一次のプロバイダです。 しかし、ネット上の情報はインターネット・サービス・プロバイダから直接ネット上に発信されているのではなく、ネットへの発信専門のプロバイダ(コンテンツ・プロバイダ=CP)に提供され、コンテンツ・プロバイダがネット上に発信し、私達が見ることができるという関係にあるそうです。

 つまり、匿名の誹謗中傷等の発信があればそれは誹謗中傷者が契約しているインターネット・サービス・プロバイダを経由して掲示板等を運営しているコンテンツ・プロバイダに提供され、それによってネット上で見ることができるようになるのだそうです。
 見る側からすると、誹謗中傷の発信のデータはコンテンツ・プロバイダが持っています。コンテンツ・プロバイダである掲示板等の管理者に削除を求め、削除してもらえれば誹謗中傷はとりあえずそのサイトからは消えることになります。

 サイトには管理者が記事の削除をする手続を掲示しているものが少なくありません。昔と比較してこの手続が整ってきたと思います。まずこの手続を試みることが最初の一歩で、対応してくれればこれが最も簡単な対応策です。ただ、この種の事件を担当した経験のある弁護士に聞いたところでは、ネットの世界にはなかなか無秩序な面があり、削除依頼文をそのまま掲示板に掲載されて「晒された」ことがあるそうです。削除依頼文の作成にも注意が必要です。

Q2 管理者が削除してくれない場合に誹謗中傷の発信の差し止めや発信者への損害賠償請求はできないのでしょうか。

(答)まず、匿名の発信者がどこの誰か調査する必要があります。調査の根拠となる法律は「プロバイダ責任制限法」(正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)です。法律名が不思議な感じですが、発信者の情報を開示しても要件をみたしていれば、発信者からはプロバイダの責任を問えないように制限したから、安心して発信者情報を教えなさいという趣旨の法律です。この法律に基づいて、①まずコンテンツ・プロバイダに、その誹謗中傷情報は何時発信されたのか、IPアドレス(接続する際、接続したコンピューターに割り振られる記号らしいです)は何かの開示を求め、そこで把握できた情報を元にインターネット・サービス・プロバイダはどこか調べて、②そこに対してその誹謗中傷した発信者は誰かという契約者情報の開示を求めることができるというしくみです。プロバイダが請求に対して開示してくれることもありますし、開示してくれない場合は、コンテンツ・プロバイダに対する裁判で開示させ、さらにその情報を元にインターネット・サービス・プロバイダに対しても開示を求め、開示してくれなければ裁判をして開示させることになります。現行の法律ではこの2段階の手続が必要です。さらに開示を求める要件も厳しく、①あなたの権利が侵害されたことが明らかであること、②損害賠償請求をする等開示を求める正当な理由があることが必要です(プロバイダ責任制限法4条)。また、技術的なことですが、管理者のところに発信者の記録が残っていなければなりません。大体2、3か月しか保存していないそうですから記録が消去されてしまえばどうにもなりません。その他の条件もあり、なかなか大変です。

 開示請求者からすると使いづらい法律なので、請求があった場合の記録の保存をプロバイダに義務付けるとか、1回の請求で誹謗中傷した者が誰か開示されるようにするといったプロバイダ責任制限法の改正が2021年4月に成立しました。これが施行されれば誹謗中傷した者を知ることがもう少し容易になると思います。ただし、現在でも発信者情報はこの法律に基づいて相当開示されており、誹謗中傷者に対して責任追及がされています。誹謗中傷して責任追及されたがどうしたら良いかという相談も私のところに相当数来ています。誹謗中傷はくれぐれもやめていただきたいと思います。

Q3 発信者情報が分かるということは、私が変なページを見ていたら私が見たということもプロバイダの側から分かるということなのでしょうか。

(答)技術的な問題ですが、これは通常では分からないものだそうです。「あなたのIPアドレスは◯ですね。あなたはいやらしいページを見ていたので公表されたくなければお金を払え」という趣旨のメールが来たという相談を受けたことがありますが、これはたんなる詐欺です。誰彼構わずこんなメールを送っているのです。ネットに接続すると、自分のパソコンや携帯電話に割り振られたIPアドレスがプロバイダに伝わることは確かなようですが、IPアドレスにそのパソコン等の使用者が誰かという情報は全く書き込まれていないので、それだけでは誰かは分からないものだそうです。ただ、例えば会社で契約しているプロバイダを私的に使用してアダルトサイト等を見たら会社には誰が何を見たか分かりますから注意してください。

 誹謗中傷等の被害の回復には法的知識のみでなく、インターネットの技術的な知識も相当必要です。この種の事件は知識のある弁護士の方が対応に適していると思いますので、ホームページ等で自分はプロバイダ責任制限法を取り扱っていると報告している弁護士に相談される方が良いと思います。ただ、ネットの世界には「弁護士」と誤認させるような表示をしているページもありますから、弁護士かどうかは日弁連のホームページで確認してから相談してください。

以上