所有者不明の不動産がある!

Q1 所有者のわからない不動産(土地や建物)があると最近言われていますが、不動産には登記制度があるし、固定資産税もかかるのに所有者不明ということが本当にあるのですか。

(答)相続登記がなされないまま長期間放置されたため、誰が相続しているのかの調査が困難だったり、相続人が分からなくなってしまっていることが多いのですが原因はそれだけではありません。私は1985年に弁護士になったのですが、当時、建物の登記簿がないという事件を取り扱い、驚いたことがあります。私は不動産はすべて法務局に登記されていると思いこんでいました。しかし、建物については所有者が自分で登記をするのが原則であるため、所有者が登記申請しないと登記簿が作られないのです。登記簿がない不動産にどうやって固定資産税を課税するかということですが、固定資産税は市町村等の税金ですから、市町村等としては、巡回して新しくできた建物を発見して固定資産税課税台帳に記載して課税するのだそうです。市町村は固定資産税課税台帳を作り、法務局は登記簿を保管していますが、その情報は交換していますから、市町村が発見した建物は登記されているようですが、市町村が建物を見落とし、建築した人も登記申請をしなければ固定資産税課税台帳にも登記簿にもいずれにも記載されないことになります。公的記録がなければ誰の物か分かりません。

 その他不動産が誰の物か分からない原因には次のようなものがあります。

(1)昭和40年代頃までの古い登記だと、土地の登記簿に所有者として記載されている「住所 ◯市◯番◯号 氏名A」について、住民票(除票)を見ても戸籍謄本(除籍謄本)を調べてもAさんが見当たらないことがあります。昔は住民登録制度や外国人登録制度に不備な点があったことが原因のようですが、そうなると、そもそもAさんを見つけることができませんからまさに「所有者不明」です。

(2)ある不動産について、その登記簿がどれか分からないことがあります。登記簿を見つけるには、不動産の「所在地」から検索します。しかし、例えば私の事務所の住所は下関市竹崎町4丁目4番2号ですが、その土地の登記簿上の所在地は下関市竹崎町四丁目50X番◯号です。このように多くの不動産で登記簿上の所在地の表示は住居表示と異なっています。登記簿上の所在地の表示は、住居表示とはもともと別のものだったため、両者が完全に一致していることが珍しく、住居表示で申請しても登記簿は取得できないことがあります。今は法務局が対応関係を整理して、登記簿上の所在地の表示も整理され、対応関係が分かるものが多くなりましたが、それでも、ある不動産の登記簿がどれか全く分からないことがあります。

Q2 私の自宅の土地は昭和30年代に亡くなった父方の祖父名義で、自宅の建物は父名義です。父も母も既に亡くなっています。私の名義にするにはどういう手続が必要でしょうか。面倒なのでこのまま放置しておいても私の物にはならないのでしょうか。

(答)お祖父様にはお父様以外に子供(つまりあなたから見ればおじ、おば様)はおられなかったのでしょうか。おられるなら全員お祖父様の相続人ですから、全員と遺産分割協議をする必要があります。おじ様等が亡くなられていれば、おじ様等の相続人を探して協議する必要があります。例えばおば様がおられて、その方が認知症になられていると話し合いをするのに後見人が必要になります。もちろんあなたに兄弟姉妹がおられればその方とも協議が必要です。時間が経てば協議する相手の人数が増えますから調査も協議も大変になります。

(Q)実は、私には父方のおじ、おばが全部で5人います。2人は存命で1人はしっかりしていますが、1人は認知症です。3人は亡くなっていて、それぞれに2名の子供がいます。祖父の土地に家を建てたのは父ですし、父が亡くなってからは私が住み、土地の固定資産税もずっと払ってきましたから、父から私が引き継いで時効で取得していることにはならないのでしょうか。

(A)時効で取得するには、不動産を使い始める時に「自分の物にしようとする意思」(「所有の意思」と言います)が必要です。相続の場合、相続人としての資格で不動産を使用できますから、相続を原因として不動産を使用し始めても、それだけでは他の相続人を排除して自分の物にしようという「所有の意思」は認められないと考えられています。従って原則として時効取得はできません。ただ、お父様が家を建てた時に、土地を他の相続人からもらったと考えていたと客観的に認定できる場合もあるかもしれませんが、それなりに相続人間で協議があったことは必要で、何もしていないと時効取得は認められないと思います。つまり、このまま放置していても協議するべき相続人が増加するだけであなたの物にはならないと覚悟していただいた方が良いと思います。

Q3 とりあえずおじ等から遺産分割を請求されているわけではないので、面倒ですからこのまま放置しようかとも思うのですが、どういう不利益が考えられますか。

(答)こういう考えで数十年相続登記がされないまま経過していることが少なくないようで、これが最初に述べた所有者不明の不動産の大きな発生原因となっています。どなたかが亡くなるとその度に相続人が増加し、協議するべき人数が増加します。行方不明の人も出るかもしれません。人間関係も薄くなりますから、話し合いが難しくなります。お父様がご存命中と今では今の方が協議は難しいのではありませんか。このままにしておくと相続人を調査するために取得しなければならない戸籍の数も増加し、必要な費用も手間も増えます。自分の物にする手続がどんどん複雑で大変になるのです。相続登記が放置されないよう相続登記を義務付けようという提案もされています。この機会にぜひ解決に乗り出していただきたいと思います。

以上