1人でも従業員を雇ったら労務管理を考えましょう

Q1 私の会社は従業員5人です。家族的に経営しています。用事があると言われれば適当に有給で休んでもらっています。働き方改革と言われていますが、そもそも当社程度の規模の会社で、従業員との関係のために法律の勉強をする余裕はありません。就業規則と言いますが、「労働基準法等法令のとおり」ではいけないのですか。そもそも当社程度の規模でも就業規則を作らないといけないのですか。

(答)御社には労働基準法上就業規則の作成義務はありません。労働基準法89条では、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」とされています。つまり、10人以上の労働者を使用している場合は、就業規則の作成及び届出義務があり、違反すると労働基準法120条で30万円以下の罰金に処されます。

社長:就業規則の作成なんて面倒ですね。

山元:そうでしょうか。従業員の労働条件について取り決めたことを記録しておかないと何をどう決めたか分からなくなりませんか。この記録こそが実は「就業規則」ですし、労務管理の第一歩です。それに従業員数等は変動しますから、規模が拡大して10人以上になったときにいきなり作るのはもっと大変でしょう。

社長:作るとしたら、まずどういう点を決めておくべきでしょうか。

山元:まず、労働時間のことでしょうね。雇用する時点で、何時から何時まで働くということを決めていないところはないと思います。

 意外と失念されていることが多いのが休日の扱いです。御社も含め全ての使用者は、従業員には1週間に1日の休日(労働基準法35条、「法定休日」と言います)を付与しなければならないのですが、これが何曜日なのか決めておく必要があります。

社長:当社は週休2日ですが、法定休日と休日はどう違うのですか。

山元:労働時間は就業規則で特別な制度を作らない限り、休憩時間を除き、1日8時間、1週間40時間が限度で、これを「法定労働時間」と言います。法定労働時間より御社の労働時間の方が1日7時間である等、短い場合、8時間までの残業を命じることは法律で禁止されていませんが、8時間を超える残業を命じることは法定時間外労働として禁止されています。
 土日のうち、法定休日以外の休日の労働は、通常の(法定労働時間内の)残業または法定時間外労働となります。しかし、法定休日に労働させることはこれとは違い「法定休日労働」として、別に禁止されています。   

 法定時間外労働も法定休日労働もいずれも禁止されていますから、措置を取らないで労働させると労働基準法違反として法119条で6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金という罰則があります。

社長:時間外や休日の残業の中に法律でそもそも禁止されているものがあるとは驚きました。今回の改正でそうなったのですか。

山元:これは以前からそうです。労働基準法36条では、法定労働時間を超える残業や法定休日の労働を命じるには、過半数を組織する労働組合や従業員の過半数を代表する者との書面による協定をし、監督署に届け出ないといけないと定められています。これを通称36(サブロク)協定と言います。これをしないまま、結果的に違法な残業を命じてしまっている会社も少なくありません。この協定を是非締結してください。そのためには、法定休日が何曜日か取り決める必要があります。

Q2 就業規則を考える場合、ネットに出ているものを適当に探してそのまま利用しようかと思うのですが、注意するべきことはありますか。

(答)ネットに出ている就業規則には、労働基準法では使用者に義務がないことまで従業員側に有利に決めているものがあります。労働基準法は基本的に従業員の権利の最低基準ですから、ネットで就業規則を公表するような企業は、それより従業員に有利に決めていることが多いものです。

 例えば、労働基準法では、使用者には産前・産後の休業期間を有給にする義務はありませんが、就業規則で有給としている企業は少なくありません。これを写して使用すれば、御社も産前産後の休業中の給与は支払わなければならないことになります。

社長:法律上の義務がないなら、産休を求める職員がいた時に、就業規則を変更して無給にしても良いのですか。

山元:一旦有給とするとの就業規則を作成すれば、これを無給に改めるには、従業員の同意が必要です。こういう変更を「不利益変更」と言います。就業規則の条項について、法令より従業員に有利にすることは法的には問題ありませんが、従業員の同意なくやめられなくなることがありますので、作る際には単に写さず必ず読んで検討してください。

Q3 今回、法律の改正で、従業員に有給休暇を実際に5日は取得させなければならなくなったと聞きましたが、これは当社にも適用されるのでしょうか。

(答)御社にも適用されます。今回、労働基準法39条7項が追加され、10日以上の有給休暇を取得する権利がある従業員に対しては、5日は実際に有給休暇を取得させなければならないことになりました。本年(2019年)4月1日からすでに施行されています。付与しないと労働基準法120条で30万円以下の罰金という罰則がありますので、注意してください。

 6か月間継続して勤務して、その6か月の間の勤務日数の8割以上を出勤した従業員は、10日の有給休暇を取得する権利を取得します。継続して勤務すれば、最長20日の有給休暇を取得する権利があります。厚労省のホームページ等で有給休暇の日数は確認してください。パートタイム従業員についても条件を満たせば10日以上の有給休暇を取得する権利がある場合があります。そのうち5日は実際に取得させることを義務付けたのです。

5日でも有給休暇を確実に取得させるためには、従業員各自について、有給休暇を何日取得する権利があって、何日取得したか、きちんと記録して管理することが絶対に必要です。社長の記憶では到底管理できません。

 5人従業員がいて、例えば1人平均14日有給休暇を取る権利があるということは、全員が有給休暇を全部取得すれば年間70日休むということですから、平均すると毎週1日以上は誰かが有給休暇を取っていることになります。今回義務とされたのはそのうち5日だけですが、全員が有給休暇を全部取っても仕事がこなせるようにするには、仕事の分配方法や担当のさせ方を従来とは根本的に変え、小規模な会社でも労務管理を強く意識しなければならなくなったということだと思います。