相続法が改正されました

Q1 相続法が改正され、平成31年1月13日から施行される規定もあると聞きました。

(答)平成30年7月6日に相続に関する民法等の一部を改正する法律が成立し、7月13日に公布されました。

 改正点が多いので雑誌等でいろいろ紹介されていますが、施行される時期が規定毎に3つに分かれていて、2019年(平成31年)1月13日に施行される規定、2019年7月1日に施行される規定、2020年4月1日に施行される規定があります。

Q2 平成31年1月13日に施行されるのはどういう改正ですか。

(答)自筆証書遺言の方式が緩和されました。

 従来、自筆で作成する「自筆証書遺言」は、全文遺言者が自筆で書き、日付と、署名・押印が必要でした。これも、そもそも「知らなかったなあ~」と言う人が多いでしょう。私も自筆証書遺言はたくさん見ましたが、遺言の一部が自筆でなかったり、印が押してなかったりして、様式を間違っているために無効と判断されるものが少なくありませんでした。

 その中で特に自筆で作成されていないことが多いのが、財産目録で、特にこの20年位、財産目録をパソコン等で作成して印刷し、遺言に添付してしまっているものがありました。遺言の内容がはっきり分かりますので、何故これが無効なのか驚くくらいだったのですが、法律上は様式違反で無効だったのです。

 そこで、今回財産目録は自書でなくてもよいものとしました(改正民法968条2項)。ただし、財産目録の各頁に割印し、全部の頁に署名しなくてはいけません。そうしないと無効になります。

 さらに、自筆証書遺言を法務局が保管してくれる制度ができたのですが、保管してもらえるようになるのは2020年7月10日ですから相当先です。

 遺言の目録以外の部分をパソコン等で印字しても従来どおり無効ですからこれは注意してください。日付も署名も押印も必要です。押印のかわりに「花押」を記載した自筆証書遺言について、最高裁判所平成28年6月3日判決はこれを無効としました。私は押印より花押の方がはるかに偽造されにくいと思うのですが、少しでも様式に違反すると無効なのです。様式中自筆でなくてもよくなったのは、財産目録のところだけですから注意してください。

 自筆証書遺言は無効になりやすいので、今後も遺言されるなら、自筆証書ではなく公正証書遺言の作成をお勧めします。

Q3 2019年7月1日から施行される相続法の改正にはどのようなものがありますか。

(答)今回の改正の大半のものはこの時期に施行されます。いろいろあるので私が個人的に特に重要と思う項目だけ説明します。

⑴遺産分割前の払戻し制度
 遺産分割前に預金の払戻しができる制度が創設されました。これは特に影響が大きいので次の質問に対する回答で説明します。

⑵遺留分制度に関する見直し
 遺留分という制度があります。配偶者、子供については、法定相続分の2分の1、配偶者がなく、直系尊属(親など)だけが相続人の場合は、法定相続分の3分の1については、被相続人の遺言があっても、相続人はこの割合を請求できるという制度です。

 この制度は、子供等の身近な相続人に一定割合の財産を確保させることを目的としていますが、金銭そのものを請求できる権利ではなく、「共有持分」を取得してしまう権利で、困った問題も発生していました。

 例えば不動産だけが遺産であり、相続人が子供A、Bの2人だけだとすると、そのうちの1人Aに遺産の全部を遺言で相続させてしまった場合、もう1人の子供Bが遺留分の請求をすると、Bは金銭請求権ではなく、不動産に対して遺留分である4分の1の共有持分を持ってしまい、お金の請求はできなかったのです。つまり、この不動産の時価が1000万円であるとしてもBは250万円の金銭の請求はできないのです。このように遺言したためにかえって問題を複雑にすることがありました。

 そこで、これを改めて、Bは250万円の金銭を請求できることとし、逆にAは支払いに期限を付けさせてもらうよう家庭裁判所に求めることができるようにしました。

⑶相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
 従来、息子の奥さん等相続人以外の被相続人の親族が、無償で被相続人の療養看護等を行った場合、遺言していない限り息子の奥さん等に遺産を分けることができませんでしたが、一定の要件の下で、その人は相続人に対して金銭請求をすることができるようにしました。

 常識的にもそうするべきだと思いますが、家庭裁判所がどうやって評価するのかなという疑問はあります。

Q4 遺産分割前に被相続人の預金の一部の払戻しができるようになるというのはどういうことなのでしょうか。今までできなかったのですか。

(答)今までも相続人全員が同意すれば、遺産の一部であるA銀行の預金だけでも解約することはできました。問題は、相続人の中に、これに納得しないとか、全く無関心で一切同意してくれない人がいる場合で、被相続人の最後の入院費を払うために相続人の1人が被相続人の預金を払戻そうとしても、払戻しができませんでした。

 このため、入院費等を相続人の1人が立て替え、遺産分割協議の終了まで負担しているということも少なくありませんでした。以前はこのような場合、相続人の1人からでも金融機関に対して自分の法定相続分だけの金額の払戻しを求めることが認められていたのですが、平成28年12月19日の最高裁判所大法廷決定でこれは認めるべきでないとの見解が示され、自分の相続分だけの金額の払戻しの請求ができなくなりました。

 今回、相続人の1人でも、自分の相続分の一部について、(相続開始時のその口座の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)との計算で算出される金額ほどは、同一の金融機関については150万円を限度に払戻しをしてもらえることになりました。

 例えば被相続人はA銀行の普通預金・口座番号**番に600万円の預金があり、法定相続人は子供2名の場合、協議ができなくても相続人の1人は、600万円×3分の1×2分の1(法定相続分)の計算で、100万円までは払戻すことができるということです(改正民法909条の2)。

 施行されるのは重ねて申しますが2019年7月1日からです。

Q5 その他、どんな改正があったのでしょうか。

(答)その他2019年7月1日から施行される改正としては配偶者の保護が手厚くなったり、遺言の執行を巡る問題に対応するものがあります。

 また、配偶者の居住権を保護するための方策ができましたが、これは2020年4月1日施行ですので、また機会を見て説明させていただこうと思います。