どんなことがパワハラですか?パワハラしたらどうなるのですか?

Q1 私は製造業で工場を経営していますが、若い従業員がふざけて危険なことをしたので「やめろ!ふざけるな!」と注意したところ「パワハラだ」と言われました。危険な行為をすれば注意してやめさせるのは当然ですし、従業員に対して私が理不尽なことをしてはいけないとは思いますが、「パワハラ」と言えば経営者や上司が黙らなければならないのはおかしいでしょう。変な言葉をはやらせて欲しくないとすら思います。

(答)経営者や上司は、パワハラ(パワーハラスメント)と言われたら黙らなければならないというものでもありません。特に製造業等、危険な作業を伴う場合、職場の安全を守るため、厳しいことを言わなければならない場合もあるでしょう。

 ただ、社会には、従業員や部下を自分より下に見て、対等な関係ならできないような言動をする経営者や上司がいます。労働者と使用者の関係は人間同士としては対等ですよね。人間らしく働くという観点から考えても、してはいけないこと、越えてはいけない線があるのではありませんか。

 「パワハラ」という言葉は、何をしてはいけないかを議論する手がかりにしていただけたらと思います。

Q2 パワハラについて定義はあるのでしょうか。

(答)特に明確な定義はできていません。 

何がパワハラなのか、考え方を整理しようということで政府が、学識経験者や、経営者や労働組合の代表を集めて「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」を開催し、平成30年3月に報告書をまとめました。

 そこで、次の3つのパワハラの要素を示し、これらのいずれも満たすものをパワハラであると整理しました。まず、次の3つの要素がパワハラを理解する基本となります。

ア 職務上の地位・優位性を利用している

イ 業務の適正な範囲を超えた指示・命令である

ウ 相手に著しい精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を害する行為である 

Q1の事例はどうでしょうか。
 安全のための指示ですからアの「優位性を利用している」とも言えないでしょう。「ふざけるな」という言葉は、荒い言葉ですが、安全のため業務の正当な範囲を超えるものではないと思います。従って、Q1の事例はパワハラではないと判断されるのではないかと思います。

Q3 具体的にはどんな行為がパワハラになるのでしょうか

(答)先の検討会報告で典型的なパワハラとして次の6つの類型が示されています。次のようなことはしてはいけないとみなさん共通して理解できるのではないでしょうか。

①身体的な攻撃 暴力や傷害のことです。殴る・蹴る・突き飛ばすなどがあります。「パワハラ罪」という犯罪はありませんが、身体的な攻撃は暴行罪や傷害罪という刑法犯に該当する場合もあると思います。私は、ある町に出張に行った時、移動中のタクシーから男性の職員と思われる者3名が事務所の外に正座させられているのを見たことがあります。見た私もショックでしたが、こんなことをさせると強要罪等の刑法犯に該当する可能性すらあります。

②精神的な攻撃 脅迫や名誉毀損、侮辱、酷い暴言などの精神的侵害もパワハラになります。これも脅迫罪や名誉毀損罪等刑法犯に該当することがあります。いかに業務でも言葉遣いには気をつけるべきでしょう。昔のことですが、私が事務所で職員を注意していた時、たまたま友人の経営者が入ってきてそれを聞かれてしまいました。その時、「人の前では犬も叱るな」と注意されました。人前で従業員を叱ることは、特に不特定又は多数の人の前なら名誉毀損にもなりかねませんし、叱っている姿を他人に見られると、あなたが思っているよりあなた自身の評価を下げ、ご自身の仕事に差し支える可能性もあります。

③人間関係からの切り離し 無視、隔離、仲間はずれにするなどの行為も、度が過ぎるとパワハラに該当する可能性があります。

④過大な要求 業務上明らかに達成不可能なノルマを課すことです。例えば絶対できないのに、今日中に100件営業に回ってこいなんていう命令もこれに該当する可能性があるでしょう。

⑤過小な要求 程度の低い単調な作業を与え続けることも、パワハラに該当する可能性があります。

⑥個の侵害 事務所で個人用の机の引き出しを勝手に開けたり、個人用のロッカーを開けたり、プライベートな内容に過剰に踏み入ってくる行為も、相手に精神的苦痛を与えたり職場環境を害することがあればパワハラになる場合があります。

Q4 パワハラをすると、どういうことになるのでしょうか。

(答)パワハラ罪という独立した犯罪はありませんが、前問で述べましたように、暴力等はそれ自体が犯罪ですから、刑事事件になることもあり得ます。あなたが部下から個人として民事の損害賠償請求をされる可能性もあります。会社もあなたの行為について使用者として従業員から民事責任を追及されることもあります。あなたが会社から懲戒処分を受けることも考えられます。

Q5 職場でパワハラをなくすために、どんな対策があるのでしょうか

(答)トップがパワハラを発生させないという姿勢を取り、それを社内に周知することがまず出発点だと思います。従業員を叱る場合でも、全従業員に問題点を共有してもらうために、他の従業員がいる前で叱るという考え方もありますが、外部の人に聞かれるような状態で叱ることは避けるべきでしょうし、相手の人格を否定するような言葉は使わないように十分注意するとともに、人前で叱る場合は特に言葉を慎重に選ぶべきだと思います。