空家をめぐる法律について

Q1 私の両親が介護施設に入り、実家が空家になりました。築50年でいろいろ不具合もあります。このままにしておいて、風で壁板が落ちてきたりして、誰かを怪我させたら誰に責任があるのでしょうか。どの程度まで管理しておかないといけないのでしょうか。また、両親の物なので私が勝手に修理等しても良いものなのでしょうか。

(答)建物等の土地の工作物については、その設置又は管理に瑕疵がある場合は、それはまず第一に占有者が責任を負い、占有者が相当な注意をしたということを証明すれば所有者が責任を負います(民法717条)。つまり、所有者が誰かに貸していれば、借り主が占有者ですから、まず、借り主が責任を負います。あなたのように、ご両親のもので、ご両親が住んでおられたということなら、所有者=占有者ですから、瑕疵があれば、ご両親が責任を負います。「瑕疵」というのは、その建物が通常有しているべき安全性を欠いているということです。庭木の植え方や支持の方法に瑕疵がある場合も同じです。

 つまり、通常有するべき安全性を確保しておかなければいけないということです。具体的には、特別な大型台風や特別な天災は別として、通常の風で家の壁が飛んで誰かに当たったり、周辺の家屋を壊したら、弁償しなければならないということです。

 あなたの両親の物ということであれば、修理等は両親がされる必要があり、あなたが勝手にすることはできません。しかし、ご両親に判断能力がないような場合は、あなたが家庭裁判所に申し立てて後見人となって修理するべきだと思いますが、時間がない場合は、緊急の補修ができる場合もあります。これは個別の事情によりますので、勝手に判断せず必ず弁護士等専門家に相談してください。

 法律の話ではありませんが、私が後見人として空家を見た経験からすると、空家になり、誰も住まないなら、最低次の点は検討された方が良いと思います。

⑴水道の元栓を締める(水道局に確認してください)。冬場、水道管が破裂して、水浸しになることが多いそうです。

⑵特に冷蔵庫に注意し、腐敗する物は処理しておく。電気も切ることを検討してください。

⑶その他、風で飛びそうなものは家の中に入れるかきちんと打ち付ける。

Q2 空家対策について行政は何か支援してくれないのでしょうか。

(答)空家のある市町村に相談窓口が設置されているはずです。平成27年5月26日「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、「空家法」と略します)が施行されました。空家法は、市町村が空家について、いろいろな対策をできるようにしている法律です。私の住んでいる下関市のホームページを見ましたら次のような支援策が記載されていました(平成29年12月19日現在)。

⑴空家の相談窓口があります。

⑵空家対策に関する説明会と無料相談会が定期的に開催されています。

⑶空家の管理を宅地建物取引業者や管理業者に依頼して行う場合、要件を充たせば管理費用の補助があるそうです。現実に、空家の管理を引き受けている業者がいますから、管理を頼むというのは一つの対策だと思います。

⑷空家を購入する方や売却予定の方が、省エネルギー化又はバリアフリー化する改修工事をする場合はその一部を補助する制度があるそうです。

⑸特別に危険であると認定されるような家屋を解体する場合には、補助金の制度もあるそうです。

 以上は下関市の制度です。空家のある市町村の制度しか利用できませんから、空家のある市町村に相談してみてください。このような制度ができる前ですが、下関市には特に危険な建物の解体について、年間で数件、件数を限定して解体費用の一部を補助する制度がありました。私は、後見人として、その補助金を利用してご本人の空家を解体したことがありますが、本当に助かりました。

Q3 空家を放置した場合、Q1の民事的な問題以外に市町村から例えば除去を命じられるようなことはあるのでしょうか。

(答)空家法で、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」は「特定空家等」として、市町村は次のような特別扱いをすることができるようになりました。いきなり解体・除去を命じられることはありませんが、特定空家と認定されれば、なかなか厳しい制度です。

⑴市町村は、空家の状態を調査できます。調査の結果これは危険な特定空家の可能性があるということになると次に進みます。

⑵特定空家の可能性があれば、立ち入り調査をすることもできます。

⑶調査の結果、特定空家と認定されれば、市町村から所有者に対して助言・指導ができます。

⑷助言・指導に応じないと猶予期間は付きますが改善勧告がされます。
 改善勧告を受けると、住宅用地として固定資産税の減免の特例対象ではなくなりますので、土地の固定資産税が増額になります。数倍になることもあるそうです。これは相当厳しいと思います。

⑸勧告に従わないと、猶予期間は付きますが、改善命令が出されます。この際には所有者は反論等の意見を述べる機会があります。

⑹これに従わないと、強制的に対処されます。「対処」ですから、要は危険がなくなれば良いので常に解体されるわけではありません。修理ということもあります。その費用は所有者の負担となります。

 法律が施行されて3年で、市町村も条例を整備している段階でしょう。 逆に近隣の家が危険な空家である場合、近隣住民も市町村に相談することができるようになっています。

 所有者に判断能力がなくなっていたらどうするかとか、相続人の発見が難しい場合はどうするかと考えると空家問題は根が深いのですが、解決のための一歩となる法律ができたことは確かで、所有者やその関係者としては、先延ばししないで対応を考えていただきたいと思います。