高齢者が不必要な商品を
大量に購入しているが
どうすれば良いか

Q1 私の父は85歳で、母が数年前亡くなったので、一人で暮らしています。遠くに住んでいるので、年に数回しか行けませんが、家に行くと冷蔵庫が大量の健康食品でいっぱいで、消費期限もどんどん切れていっているのでもったいないと思っています。1本1万円で30本くらいあります。父に言うと「そんなに買ってないだろう」と言うので、注文しているという認識がそもそもないのかもしれません。どうにかやめてもらう方法はないのでしょうか。

(答)いくらもったいないものでも、購入するのは本来ご本人の自由ですから、そこはお父様ご本人に購入をやめようと考えていただくしかありませんが、注文しなくても商品購入が続くことがあります。私も相談を受けるうちに最近気づいたのですが、販売業者と1年間等の一定期間、毎月一定分量ずつ購入し、代金は自動引き落としで支払うという契約を締結していることがあるのです。ご自分でもこのような継続的契約をしたことを失念されていることがあります。注文しなくても購入が続くタイプの契約をしていることがあることを知っておいてください!

 このことも意識して、一体誰とどんな契約を締結しているか家にある書類等で調べてください。誰とどういう契約をしているのか、誰に連絡したら解除できるのか分からないとどうにもなりません。ご自分でお父様からできるだけ聞いて、資料を集めて地域の消費生活センター等に相談して、どんな契約をしているか一緒に解明してください。特にネットでの契約だと、手紙等での通知が来ない設定もあるので、自宅にある書類だけでは分からないことすらあります。購入をやめるためには、契約相手を調査して積極的に連絡しなければならないことがあります。

Q2 そもそも過大な分量の商品の販売は違法ではないのですか。

(答)契約は自由なので違法とも言えません。しかし、悪質な訪問販売形態又は電話勧誘販売形態の過量販売については特定商取引法が次第に整備され、契約が解除できるようになってきています。

 また、販売形態を問わず、悪質と考えられる過量販売については、消費者契約法が改正され、契約を取り消すことができるようになってきています。

⑴特定商取引法は、訪問販売(平成21年12月1日以降の契約に適用・同法9条の2)又は電話勧誘販売(平成29年12月1日以降の契約に適用・同法24条の2)という取引形態に限定して、次の場合には契約の解除ができることとしています。なお、自分で店舗に行ったり、通信販売やネットで自分で申し込んだ場合には特定商取引法では解除できません。

ア 日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品の売買契約である場合

例えば消費期限が6か月の健康食品を、一人暮らしの高齢者に1回で2年分等販売していれば、この規定が適用され、解除できるのではないかと私は思います。これについては、客観的に著しく過量と判断されれば販売業者の側が著しい過量販売だと思っていなくても解除できます。

イ 過去販売した分と加えると日常生活において通常必要とされる分量を著しく超えることを販売業者側が知っていて販売した場合

  例えば消費期限が6か月の商品を、一人暮らしの高齢者に先月1回で1年分、今月も1年分販売していれば、1回だけでは著しく過量ではないかもしれませんが、2回分合わせると著しく過量なのではないでしょうか。ただ、これについては、業者側が著しく過量であることを知っている場合に限り解除できることとされています。

⑵消費者契約法では、平成29年6月3日以降の消費者契約について、1回で通常想定される分量を著しく超えるか、又は、過去の取引と合わせて通常の分量を著しく超える場合は、契約の取り消しができることとなりました(消費者契約法4条4項)。但し、取り消すには業者側が著しく過量であることを知っていることが必要です。店舗に行って勧誘されて買っても、ネットで買っても業者側が過量であることを知っていれば契約を取り消すことができるようになりました。

⑶このように法律の規制は強化されてきているのですが、どのくらいなら過量と言えるかの基準が難しいし、業者側が過量だと知っていることが必要とされている場合も多く、解除又は取り消して返品できる場合は限られます。まず、業者を調べてこれからの販売をやめてもらうように連絡することが第一です。

Q3 父の判断能力が衰えていて、契約をやめようという判断すらできなくなっていたらどうしたら良いのでしょうか。

(答)医師と相談し、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」のであれば、後見人の選任ができます。「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である」のであれば、保佐人の選任ができます。後見・保佐については選任することにメリット・デメリットがありますので、弁護士に相談してみてください。なお、法的な判断能力が衰えたり、なくなったりしていても、財産管理にあたってはできる限り、ご本人の意向を尊重しなければなりません。後見や保佐はご本人の判断権や財産管理権を剥奪する制度ではありません。ご本人の意思を尊重しながら、ご本人のためにその財産を活用する制度です。私も弁護士として何人かの高齢者の後見人になっていますが、ある医師から「本人に対する尊敬の念を持つべきだ」とアドバイスを受けました。なんとなく忘れがちですが、衰えてきた高齢者に対する尊敬の念というのは大切な感覚だと思います。