親が認知症になったときの財産管理

Q1 私の父親は85歳ですが、話がかみあわなくなったので、病院につれて行ったら認知症と診断されました。本人は「そんなことはない」と言っています。運転もしています。私は両親とは同居しておらず、別の市に住んでいます。両親には年金があり、家の家計については心配したことがないのですが、預金等がどのくらいあるのか全然知りません。母親は、もともと父親まかせだったということで、財産のことは知らないと言っていますし、母親も認知症なのではないかと疑問に感じています。法的な対処方法があるのでしょうか。

(答)親子とも是非考えていただきたい問題です。親子は別の生計を営んでいますし、親の側には、子供に財産のことは言いたくないという気持ちがあり、子供の側にも遠慮があります。その結果、子供は親がどんな財産をどれだけ持っているか知らないことも珍しくありません。ご相談の方のお母様も本当はご存知だけど、おっしゃらないだけかもしれません。しかし、今後、なんらかの施設に入るにせよ、自宅介護をするにせよ介護には相当な費用が必要です。子供達が協力して介護するにしても、費用が必要です。これらの費用は「親孝行」のつもりで子供が負担することもありますが、けっして少額にはとどまらないので、誰がいくら負担するのか兄弟姉妹の間で話し合わずに誰かが出し、親の死亡後、その負担分を相続でどう反映するか争いになってしまうことがあります。寄与分という制度はありますが、兄弟姉妹間で激烈な争いになることもあります。親も自分の介護は自分が貯めているお金でするつもりのことが多いのではないでしょうか。しかし、いざ認知症になってしまうと、その意思を伝えることができません。法的にも親の介護は親が貯めている財産があれば、まずもって、それでするべきものです。しかし、元気なうちに子供全員と、自分の◯×銀行の預金で自分を介護してくれとまで具体的な話をされている家族はまずおられないでしょう。

 親の財産を子供が把握して、介護費用等にあてていく法的な方法として、「後見」という制度があります。「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」ことが選任してもらう要件です。子供は、親の認知症がこの常況まで進んでいれば、自分を後見人に選任するよう申し立てることができ、選任されれば、後見人として親の収入や財産を調査することができます。この時点で、弁護士等の専門家を後見人に選任することもできます。

Q2 父親が運転したり、「そんなことはない」と発言できる程度の能力があっても、事理を弁識する能力を欠くと判断されることがあるのでしょうか。

(答)実際にあります。「事理を弁識する能力を欠く」というのは「寝たきりで話もできない」という状態だけではありません。高齢者は「もの忘れがひどい」と自分でも言われることがあります。以下は私の経験的なもので医学的な専門知識ではありませんが、認知症と診断されている人の中には、「忘れたこと自体を覚えていない」という状態になっている人がおられると思います。記憶自体が欠落していて、物忘れとは質的に違うように感じています。

 この高齢者の精神状態を想像してみましょう。例えば、「山元さん。昨日は楽しかったですね!」と話しかけられたけど、その人が誰か分からないし、そもそも自分の記憶では会うような機会がないとします。これは精神的に相当衝撃を受けるのではないでしょうか。「その人の顔を忘れた」程度ではなく、会った経験そのものが記憶から欠落しているのです。そうなると笑って話を合わせるか「無礼者!君など知らん!」と怒ることもあるでしょう。記憶は欠落していますが、思考力はあるので、考えて発言はできるのでしょう。大変つらい精神状態になっておられる可能性もあります。

 「近所の店でおでんを買おう」と思って家を出る→何をしようとしたかの記憶が欠落してしまうので、「どこに行くんだっけ?」とそもそも考えず「郵便局に向かう」こととし→どんどん目的地が変わり、しかも、目的地は「子供の頃行った駄菓子屋」のような現存しない場所にすらなるのです。さらに、自分は何キロ歩いているかの記憶すら欠落してしまえば、まさに倒れるまで徘徊してしまうのではないでしょうか。

 このようであれば、いくら会話ができても、正常な判断はできないので「事理を弁識する能力を欠く」ことになると思います。我々素人が判断能力の有無を判定するのは困難です。医師に相談してください。

Q3 私が後見人となった場合、どんな仕事をするのでしょうか。また、報酬はもらえますか。

(答)概ね次のような業務を行うことになります。

(1)選任されたらすぐに被後見人(後見を受ける人、本件ではお父様です)の財産を調査し、財産目録を作成しないといけません(民法 853条)。

(2)後見人は被後見人の財産を管理します(民法859条)。管理とは、財産を処分したり、施設への入所契約を結んだりすることです。住んでいる家を売却するには家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)が、他の財産の処分には家庭裁判所の許可は必要ありません。ただ、家庭裁判所に必ず相談してください。

(3)後見人に就任したら、被後見人の生活、療養看護、財産の管理等のために毎年支出すべき金額を予定します。被後見人の従来の生活や財産状況に応じて、生活レベルに応じた看護をすることができます(民法861条1項)。

(4)後見事務に必要な費用は後見人の財産から支出します(民法861条2項)。何が後見事務に必要な費用と認められるかは勝手に判断せず、あなたを選任した家庭裁判所に相談してください。

(5)後見人は被後見人の財産から報酬をもらうことができます(民法862条)。

 (6)後見の業務が終了したとき(つまり被後見人が亡くなった時)には必ず、他は家庭裁判所の指示に従って一定期間毎に、家庭裁判所に業務の計算報告をしなければなりません。管理に必要な費用も報酬ももらえるのですから、「親孝行」ですませず、きちんと後見人に選任してもらった方が良い場合もあると思います。ここまでの症状ではない場合も、保佐人になるという方法もあります。弁護士等専門家に相談されてみてください。