遺産分割の協議手順と
相続分の計算方法

Q1 私の父の相続についてお尋ねします。相続人は母と長男の私と弟ですが、どのような手順で遺産の分割をしていくのでしょうか。

(答)次の手順で検討するのが一般的です。

①遺産には何があるのか書き抜いてみてください。どこの銀行に預金があるかとか、株や投資信託等の金融資産があるか、不動産があるか相続人同士で確認してください。預貯金等金融資産については、相続人であることが分かる戸籍謄本を金融機関の窓口に持っていけば、預金の残高や過去の取引履歴も教えてもらえます。金融機関ごとに手続きや回答までの期間が違いますので窓口で確認してください。不動産については所在地の市町村役場に戸籍謄本を持って行って、お父さんの「固定資産税課税台帳の写し」を請求されれば、その市町村に不動産があれば全部分かります。

②借金があるかないかということは大切です。しかし、お父さんが家族に内緒で借金している場合は、実はなかなか分からないことがあります。亡くなったことを知ってから3か月は相続放棄できますし、不安なら、家庭裁判所で相続放棄の期間は延長できます。数ヶ月すれば借金は普通請求がありますから、一定期間待つというのも一つの方法です。

③怖いのは、お父さんが誰かの保証人になっている場合です。債務者が支払っている間は請求がないので、保証人になっているかどうかを調べる方法がありません。保証人になっていないかとか、借金がないか不安があるときは、家庭裁判所で「限定承認」と言って、プラスの遺産以上に支払い義務を負わないという手続きもありますから、弁護士に相談してみてください。

④相続人が他にいないかを確認します。お父さんが生まれてから亡くなるまで一度でも入ったことのある戸籍は全部調べる必要があります。戸籍が多いようなら司法書士か弁護士に調査を依頼してください。

⑤以上で相続人も法定相続分も分かります。なお、誰かが贈与を受けている場合の計算方法は次のご質問で説明します。これをふまえて誰がどう財産を取得するか話し合ってください。自分たちで話し合いをするのが難しいようなら、家庭裁判所で遺産分割調停をすることもできます。

Q 2 父の遺産を調べたら、預金が2,000万円、不動産が2,000万円の合計4,000万円でしたが、弟が家を建築する際、父から2,000万円もらっていることが分かりました。相続人は母と私と弟だけと確認できました。この場合、遺産分割はどういう計算になるのでしょうか。

(答)法定相続分はお母さんが2分の1、弟さんとあなたが残りの2分の1の半分ずつで4分の1です。しかし、弟さんは生前贈与を受けているのですから、遺産を法定相続分どおりに分けることにはなりません。実際の相続分を計算するために、遺産に弟さんの受け取った2,000万円を加えます。これを「持ち戻し」と言いますが、弟さんに贈与された資金を返してもらうわけではありません。生前贈与を加えて実際の相続分の計算をするということです。

 生前贈与を加えると、計算上の相続財産の総額は6,000万円です。これをもとに各自の法定相続分を計算すると、お母さんが2分の1で3,000万円、あなたが1,500万円、弟さんが1,500万円という計算結果がでます。しかし、弟さんは既に2,000万円もらっていますから、遺産である4,000万円からはこれ以上受け取ることはできないことになります。弟さんの相続分は0ということになります。そこで、弟さんという相続人はいないものとして扱い、遺産である預金2,000万円と不動産2,000万円をあなたとお母さんの二人でそれぞれ2分の1として、2,000万円ずつ分けることになります。

Q3 弟は生前贈与の金額を全く遺産に戻さなくて良いのですか。「遺留分」があると聞きますが、それはどういうものですか。

(答)生前贈与があるときは、前問のとおり生前贈与を受けた人にも相続分があるか計算するために、生前贈与の金額を遺産に加えてみるのですが、生前贈与を受けたものを全部戻すということはしません。遺産は被相続人のものですから、誰にどう渡すかは、被相続人の意志を尊重するというのが法律の考え方です。

 ただし、相続人が遺留分を有している場合、残っている遺産の分割ではその遺留分を下回る金額しか取得できない場合は、遺留分の金額までは戻してもらうように請求できます。これは相続開始及び遺留分を害されていることを知った時から1年以内に請求しないと請求できなくなります。兄弟姉妹には遺留分はありません。配偶者や直系卑属の場合は相続人の財産の2分の1です。直系尊属だけが相続人の場合は3分の1です。

 例えば、前問の事例で、遺産が預金の1,000万円だけで、あなたとお母さんと弟さんが相続人で、弟さんだけが2,000万円の生前贈与を受けていたとします。遺産と生前贈与を合計すると3,000万円になりますから、計算上のお母さんの相続分は1,500万円となります。弟さんは生前贈与を受けているからその相続分がないとしても、遺産は1,000万円ですから、あなたとお母さんが取得できるのは、遺産の2分の1である500万円ずつということになります。

 お母さんの計算上の相続分は1,500万円でしたね。遺留分はこの計算上の相続財産をもとにその2分の1として計算しますから、750万円ほど遺留分があることになります。お母さんは、遺産から取得できる500万円と遺留分750万円との差額250万円を、弟さんに遺留分として請求できます。あなたに関しては、計算上の相続分は3,000万円の4分の1の 750万円で、遺留分はその半分で375万円ですが、遺産から500万円取得できており、遺留分である375万円以上が取得できていますので、弟さんに請求できる遺留分はありません。要するに、遺産からでは遺留分以上の財産を取得できなかったときは、その不足分を請求できるというのが遺留分という制度です。遺留分の計算は複雑ですので、弁護士等専門家にご相談いただいた方が良いと思います。

 子供のない夫婦の場合、親が亡くなっていれば、兄弟姉妹には法定相続分があっても遺留分はありませんから、「全財産を妻(夫)に贈与する」と遺言しておけば、そのまま実現されます。子供がいないご夫婦については、「配偶者に全遺産を贈与する」との遺言をされるようお勧めしています。