Q1 当社は、1年前からA社に商品を販売するようになりました。代金は月末締めの翌月末払いでいただく約束ですが、先月末払ってもらえるはずの先々月の売掛金100万円の支払いがありません。先月も150万円の商品を販売しました。今月末も支払われないと合計250万円もの売掛金がたまってしまいます。A社の担当者は「すみません。手違いです」と言い、今月も注文してきています。A社は倒産してはいないのですが、今、何ができるのでしょうか。
(問)そもそも今来ている注文は断っても良いのでしょうか。納入を断ったため、損害を受けたと言われても困ります。
(答)取引を続けているといっても、約束の売掛金が支払われないということは注文を断る正当な理由になると思いますので、断っても損害賠償請求を受けることは考えにくいと思います。
(問)回収のために今、すぐにできる法的手続はありますか?
(答)裁判所に申請して「仮差押」という命令をもらい、A社の不動産等特定の財産を一時的に処分できないようにする方法があります。
Q2 「仮差押」というのはどういう制度ですか。
(答)裁判で売掛金の請求をすると、判決まで早くても数か月かかります。それでは、裁判の間にA社が財産を処分してしまって、せっかく判決をもらっても回収できなくなることもあります。そこで、「売掛金債権がある」ことについて一定程度の立証ができれば、裁判所に申立をして、判決が出るまでの間、A社に自社の財産を処分されないよう一時的に差押をすることができます。これが仮差押です。ただ、これは一方的にあなた(債権者と言います)の言い分だけでA社(債務者と言います)の仮差押された財産を処分できないようにする制度ですので、次のような特徴があります。
(1)売掛金がある「だろう」という程度でも裁判所に認定できるような証拠が必要です。売買であれば、債務者(A社)の作成した注文書等、債務者が作成した証拠書類等が必要です。法律で「文書の証拠が必要」と定められているわけではありませんが、債務者が作成した文書等の証拠が全くないのに、「取引があっただろう」と裁判所に認定してもらうことは非常に難しいと思います。A社が作成したものであれば印鑑を押した書面でなくても、ファックスで送られた注文書でもメールで送られた注文でも証拠になります。
(2)債権者の一方的な申立で債務者の特定の財産を処分できなくしますので、間違っていれば債務者に損害を被らせることになります。そこで、裁判所は仮差押にあたり、一定(大体請求金額の3分の1から半分です)の金額を法務局に供託したり、銀行に預託したりして、損害が発生したら弁償できるように準備するよう命じます。
(3)A社の預貯金が仮差押できると一番効果的なのですが、これを仮差押するとA社の銀行取引が停止され、倒産してしまう危険性が高いので、預貯金の仮差押は原則として認められません。
(4)仮差押をしても、特別な優先権は発生しませんのでその財産に対して他の債権者が同様に仮差押や差押をしてくれば、仮差押等してきた債権者と同一順位で扱われ、本裁判で勝てば債権額に応じて配当してもらえるだけです。破産されてしまえば全債権者と同一に取り扱われてしまいます。
(問)仮差押できる財産は原則として土地等不動産ということでしょうか。それだと、金融機関に抵当権を付けられていれば、抵当権者には勝てませんよね。なんだかあまり有効な手段ではないように感じますがいかがでしょうか。
(答)そうですが、A社が倒産せずに経営を維持したいと考えていれば、仮差押を受けたままにしておくと、仮差押を受けていること自体が信用にかかわりますから、直ちに支払って来ることがあります。また、債務者が支払いに対して異議があれば、債権の全額を法務局に供託して仮差押を取り消させる手続があるので、そういう手続を取ってくることもあります。その場合でも、A社に供託金という財産があることだけは明らかになりますので、その後、裁判をした場合、回収手段があることになります。私は、A社の財産が分かるなら、仮差押は極めて有効な手段だと思います。
Q3 A社がどんな財産を持っているかどうやって調べたら良いのでしょうか。
(答)法務局でA社の会社の住所地の登記簿を取ることができますから、その不動産を誰が持っているか分かります。取引を開始する際に財産状況を質問しておくことも有効な方法ですが実際には難しいですね。今は、法務局の登記簿のデータを元にして独自に作成したデーターベースを作っていて、会社名を入れれば、その会社が登記している不動産を全部検索してくれるサービスを有料で提供している会社があります。私は財産調査に活用しています。
Q4 A社の決算書を見ることはできないのでしょうか。株式会社には決算書の公告義務がありますよね。
(答)会社法440条2項によると大会社は会計について相応の公告義務がありますが、そうでない会社でも貸借対照表の要旨を官報や新聞に公告しなければなりません。ただ、実際はこの公告をしていない会社が少なくなく、公告していても、何時、どの新聞に出しているか分かりませんから、探すのはなかなか困難です。経済調査会社にはこの公告されたデータを集めて有料で提供しているところがあります。また、会社法442条3項によると債権者は会社に対して計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書、つまり、貸借対照表や損益計算書の閲覧を求めることができることとされています。これを求めることも財産の手がかりを探す一つの方法だと思います。
以上