Q1 先日、インターネットの動画配信サービスを申し込みましたが、ネット上で申し込んだので、契約書は作成しませんでした。これで契約は成立しているのでしょうか。また、デジタルで契約する場合にどんなことに注意するべきなのでしょうか。
(答)契約は原則として口約束でも成立します(口約束で契約できないタイプのものは次の質問で説明します)。口約束で良いくらいですから当然ネット上で書面を作らなくてもデジタルで契約できます。署名・捺印しなくても立派な契約ですから注意してください。
(1)ネットでサービスを受ける場合は、申込みをしようとすると、「サービス約款」のようなタイトルの契約内容が出て、これに同意しないと先の画面に進めないのが普通だと思います。そこで約款に同意した上で「承諾」の操作をすれば業者と約束したことになりますから、契約は成立します。記録も残りますから文書と同等に証拠となります。
(2)ネット上で契約が成立するということは結構怖いことです。英文等外国語で意味が分からなくても契約は成立してしまいます。私はネットの技術的なことは良く分かりませんが、法的には次の点には注意してください。
ア 相手がどこの誰か申込みのページで分かるはずなので(分からないなら絶対に申し込むべきではないと思います)、必ずそのページを印刷等して保存してください。支払いのためカードの番号等を入力するとなるとさらに危険ですから、本当に相手が信用できるか十分確認してください。
イ 約款等の契約内容も必ず印刷等して保存しておいてください。
ウ 特に解約方法を確認し、印刷等して保存しておいてください。
「保存するなんてデジタルの意味がない」とか「面倒だ」などと言わないでください。これらを印刷するかファイル等で保存しておいていただかないと、「解約したい」というご相談を受けても、誰が相手か、どこに連絡したら良いのかすら全然分からず困ることが少なくありません。
Q2 書面(紙)を作らないといけないとされている契約等もあるのですか。
(答)法律によって書面がないと契約ができなかったり、効力は一通りではありません。参考までに整理して紹介します。
(1)書面を作らないと効力がないとされているものがあります。これはデジタルでは契約できません。
ア 契約ではありませんが、自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければなりません(民法968条)。パソコンの中に記録しておいてもネット上で保管しても自筆証書遺言としての効力はありません。
イ 定期借地契約(借地借家法22条)や期間の定めがある建物の賃貸借であって更新がないことを定める場合(借地借家法38条)は、公正証書による等書面によって契約しなければならないとされています。
(2) 書面で契約しないと効力がないとまではされていませんが、書面を作らないと契約を解除できると定められているものがあります。
ア 無償で物を貸すと約束しても書面で契約しておかないと、物を渡すまでは契約を解除できます(使用貸借・民法593条の2)。
イ 無報酬で物を預かる約束をしても、書面で契約しておかないと、物を受け取るまでは契約を解除できます(無報酬の寄託・民法657条の2、2項)。
(3)書面で契約しないと効力がないとまではされていませんが、当事者にデジタルではなく書面を交付する義務があるとされているものがあります。
ア 宅地建物取引業者は、媒介契約書(宅地建物取引業法34条の2)、重要事項説明書(同法35条)、宅地建物取引業者が当事者の場合は契約事項の書面(同法37条)を交付しなければなりません。メールで通知しても交付義務を果たしたことになりません。
イ 訪問販売等の業者は顧客に書面の交付義務があります(特定商取引法4条等)。
(4)書面を作らないと契約の効力がないとされていますが(つまり口約束では無効ということです)、書面の代わりに「電磁的な方法」(つまりデジタル)が認められているものがあります。
ア 保証契約は、書面でしなければ、効力を生じません。これは大変大切なことです。ただ、保証契約が「その内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなす」(民法446条)とされています。
イ お金の貸し借りは実際に貸主が借主に金銭その他金銭と同等のものを渡さないと契約が成立しないのが原則ですが、貸借を書面で約束すれば、契約が成立するとされています(民法587条の2)。この契約も「その内容を記録した電磁的記録」でも良いとされています。
その他、書面の要否についてはいろいろな定め方があります。文書のデジタル化に際しては書面を作る必要性について確認をしてください。
Q3 電子署名で書面への署名や捺印に代えることができるのでしょうか。
(答)前問のとおり、そもそも書面の作成が必要なものについてはそれにデジタルで署名や捺印をすることは不可能です。デジタル化できる契約書等については「電子署名及び認証業務に関する法律」がありますので、署名や捺印と同一の効力がある電子署名ができる制度があります。今回、コロナ禍の中で、デジタルの活用が進んでいます。
契約をする上で絶対に確認しておくべき最も大切なことは、契約の相手が実際に存在しているかということです。実在していないということは詐欺被害に遭うということです。実際に顔を合わせても騙されることがあるくらいですから、ネットで全然顔を合わせないで契約する場合、相手が実在しているのかの確認をより慎重にするのが当然だと思うのですが、実態は逆で、ネット上での契約の方が、実在性の確認が安易になっているように思います。契約する際は、相手が実在しているのかのチェックを絶対に忘れないでください。
以上