極度額を定めない根保証契約は無効です

Q1  私は学生向けのアパートを経営していて、賃貸借は2年契約で親に連帯保証人になってもらっています。学生が家賃の滞納をした場合、当然保証人である親に家賃を支払ってもらえますよね。

(答)極度額を決めていますか?契約書は作成しておられますか。
「一定の範囲に属する不特定の債務」を保証することを「根保証」と言います。例えばAがBから◯年◯月◯日に100万円借りるときにその保証をするのであれば、保証人は元本と利息等いくらまで保証するのか分かります。それでも保証人になることは私達法律家はおすすめしていません。人前で話をする際は演題と関係なくても「なるな保証人!」と必ず言うことにしているという弁護士がいるくらいです。ましてや、例えばAがBから◯年◯月◯日から◯年◯月◯日の間に借りるお金を全部保証しろと言われたら、保証人の責任は無限です。このように保証人となる時点でどれだけの金額の保証をするのか分からないような保証のことを「根保証」と言うのです。昔は根保証人になってしまえばそれこそ無限の責任を負うことになっていましたから、保証人になって財産を全部失った等悲劇的な事態が発生していました。そこで2005年4月1日から貸金等(貸金や手形割引等)については、個人が保証する場合は極度額を決めるだけではなく、さらに責任を制限しています。
 民法465条の2の規定がさらに改正され、貸金等は従来のままですが、貸金等に限らず一般的に個人が保証する根保証契約全般について規制が拡張されました。2020年4月1日から、根保証の責任限度額である極度額を定めないと保証は無効とされ、さらに書面で定めなければ無効とされました。賃貸借契約の保証人は賃貸借契約から発生する賃料債務はもちろん、解除してからの原状回復義務も含めて責任を負いますから、まさに「一定の範囲に属する不特定の債務」です。極度額を定めなければならないこととなり、極度額を定めなければ保証人には1円も請求できませんし、書面で定めないと保証人には1円も請求できないこととされました。

Q2 2020年4月1日以降に貸す部屋はきちんと極度額を決めて書面ももらっています。しかし、2020年3月31日までに貸した部屋については極度額を定めていないのですが、これについては2020年4月1日以降保証人への請求はできませんか。

(答)2020年3月31日以前に締結した契約の契約期間内であれば4月1日以降でも保証の効力はありますから請求はできます。しかし、契約期間が例えば2022年3月31日で満了し、自動更新された場合、その更新には改正民法の規定が適用されますから、以後保証契約は無効となります。つまり更新時以降保証人がいないことになりますので注意してください。保証人が必要なら、更新後極度額を決めて新しい保証契約書を作成しなければなりません。
 極度額については制限がないため、適当な金額を定めていただいてもかまいませんが、大きい金額であれば保証人になる人がいないでしょうし、公序良俗に反する場合もあるので常識的な金額にするべきでしょう。

Q3 就職する際、従業員の親等に身元保証をしてもらうことについても、制限があるのでしょうか。

(答)従業員の身元保証契約については昭和(平成ではありません)8年に施行された身元保証ニ関スル法律があり、保証期間が3年又は商工業者の見習いについては5年とされています。この期間については自動延長はできません。期間満了時に改めて身元保証契約をしないといけません。身元保証についても前問の民法の規定の適用がありますから2020年4月1日以降に契約したものは極度額を定めていなければ無効です。
 このように根保証人の責任は制限されていますが、根保証でも普通の保証でも保証人になる場合は本当に慎重に検討してください。保証人になった場合、「あなたに迷惑はかからない」とは絶対に言い切れません。

以上