会社経営者のみなさん。会社法で実施するように規定されていることはきちんと実施していますか?

Q1 私は株式会社を経営しているのですが、最近決算書を官報で公告しないといけないと聞きました。設立して10年になりますが、そんなことをしたことがありません。しないと処罰されるのでしょうか。有限会社にすれば公告しなくて良いのですか。

(答)まず有限会社は決算の公告義務がありませんが、株式会社は公告義務があります。違反しても罰則はありませんが、公告しないと過料の支払いを命じられることがあるとされています。
 まず「有限会社にする」ことが現在ではできません。今でも有限会社は多数ありますが、2006 年5月に会社に関する法制の抜本的な改正があり、以後、有限会社の設立が認められなくなりました。つまり、現在有限会社である会社は 2006 年までに有限会社として設立されていて、その時点で有限会社であり続けることとした会社だけです。有限会社は株式会社と同様な規制に従うこととされていますが、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」28 条で有限会社のままとした会社は決算公告をする義務がありません。しかし、今では有限会社は新たに設立できないのです。
 株式会社については会社法 440 条1項に「法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表を公告しなければならない」と定められています。決算書類を全部公告するわけではなく、会社計算規則という法務省令に定められた内容の公告をすれば良いのです。
 会社法 939 条によるとこの公告は「官報に掲載する方法」「時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法」「電子公告」のいずれかですることとされていますから、官報で公告しなければならないわけではないのですが、定款で定めていない場合は、官報に掲載する方法で公告を行うものとみなされますので官報で公告しなければなりません。官報は費用がかかるので定款に定めれば新聞や web にできます。
 株式会社が法務省令で定める決算書の公告を怠った場合は、会社法 976 条2号に該当し 100万円以下の過料に処されることになっています。
976 条2号には「この法律の規定による公告若しくは通知をすることを怠ったとき、又は不正の公告若しくは通知をしたとき。」過料に処すると定められています。会社法には決算以外にも公告しないといけないものはたくさんありますので、公告義務があるものについて公告しないと過料に処されるはずなのです。
 ただ、決算公告を怠っている会社は私が見るところ非常に多数ありますが、過料に処されたという話はほとんど聞いたことがありません。公告をしていなくても、過料に処するよう裁判所に求めるのは法務局の登記官ですから、法務局が公告をしていないことに気づかなければ過料にできないからです。しかし、何らかの事情で法務局の知るところとなれば過料に処されることがあります。
 株式会社は有限責任とされています。つまり、代表者個人や株主には取引について原則として責任がありませんから、取引にあたって会社自体の経営状態を知る必要があるので決算の公告を義務付けているのです。この意味ではご自身の会社はこの義務を果たすべきですし、取引先がこの義務をきちんと果たしているかについてもう少し関心を持っていただいても良いと思います。

Q2 「過料に処する」とはどんな手続なのですか。また、罰金とはどう違う
のですか。100万円以下と言いますがどの程度の金額になるのですか。

(答)過料は刑罰ではないので処されても前科にはなりません。過料に処される手続きは非訟事件手続法 119 条以下に定められています。違反者の住所地の裁判所に違反者を過料にするように申請があれば、裁判所は相当と判断すれば過料の支払いを命じます。審理では意見を聞かれないこともあります。違反者は過料に不服があれば不服の申立ができます。確定すれば検察庁の指示に従って過料を国に納めることになります。何の違反についていくらの過料にしているのか公表されていませんので私も良く分かりませんが、多くの場合、1回の違反について数万円という程度のようです。ただし、決算公告は株式会社は毎年する必要がありますから、数年間これを怠ると数回分ですから結構な金額になるはずです。

Q3 他に過料に処されるのはどんな場合ですか。

(答)会社法で義務が定められていることを怠ると基本的に過料に処せられることになっていますから法令上過料に処される場合は実際は非常に多くあります。例えば会社法 976 条1号には過料に処される場合として「この法律の規定による登記をすることを怠ったとき」とあります。
 実際に時々耳にするのは取締役の選任登記を忘れていたという場合です。
 会社法 332 条には「取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」と定められていますので、取締役は定款に別に定めていない限り、2年毎にきちんと選任し(同じ人が重任しても全然問題ありません)、その旨の登記をしなければなりません。しかし、数年に渡り、選任(あるいは重任)の登記を放置している会社が少なくありません。こういう会社が取締役の選任手続きをしてその登記をすると、過去登記していないことが法務局に分かります。それで過去に登記していないということで過料に処されることがあるのです。
 会社法 332 条2項で公開会社でない株式会社(つまり、株式の譲渡制限をしている会社です)については、条件はありますが、定款で任期を10 年まで延長できることになっています。小規模な株式会社であれば、定款を変更して取締役の任期を延長することも考えられてはいかがでしょうか。
 会社法には義務があるとされていても、定款でその義務の内容を緩和したり、そもそもしなくて良いことにできるようになっている事項が少なくありません。株式会社についてはそのしくみを株主が定款で相当自由に作ることができるようになっています。「定款自治」とも言います。自分の会社に適したしくみにできる場合がありますから、「変な義務があって困る」と思ったら弁護士や司法書士に相談してみてください。

以上