空き家になった実家を
不良資産にしないために

Q1 先日母親が90歳で亡くなりました。父親は10年前に亡くなり、私も弟も遠方に住んでいるため、実家は空き家になってしまいました。ポツンと1軒家とまでは言いませんが田舎にあり、売ったり活用したりする目処がありません。どうしておけば良いのでしょうか。

(答)実は以前は、このような相談に対しては「処分方法の目処がたつまで様子を見てもいいですね」と助言していましたが、最近では、「弟さんと協議して相続登記をしませんか」と助言しています。

 そう考えるようになった理由の一つは、この数年間で複数の不動産業者から、あまり魅力的とも思えない不動産について、「購入したいと言っている客がいるので、不動産登記簿を見て登記名義人に手紙を送ってみたが、手紙が届かないので、登記名義人の住民票を取って欲しい」との相談があったことです。

 ところが、登記名義人の住所調査が難しいのです。住民基本台帳法12条の3で、他人の住民票を取得できるのは、自己の権利行使又は義務の履行に必要である場合か住民票の記載事項を利用する正当な理由がある場合等に限られています。「不動産を購入したい」とか「郵便が届かない」ことは正当な理由であるとは考えられていませんので、それだけでは登記名義人の住民票を取得できません。弁護士の職務上の請求でも同様で住所調査ができません。つまり、不動産の権利者には連絡の付く現在の住所を登記しておいていただかないと、購入希望者が現れたら登記しようと思っていても、肝心の購入希望者から連絡が来ないことがあるのです。

 それではそもそも処分の目処がたつはずがないですよね。

 もう一つは令和3年4月に相続登記及び住所変更の登記を義務付ける等、所有者不明の不動産の発生防止のための民法や不動産登記法等の改正が成立したことです。法律が施行されるのはまだ数年先のこととされていますので、令和3年12月現在相続登記義務はありませんが、法律が施行されれば、その時点で登記されていない不動産についても相続登記の義務があることになる予定ですから、法律の施行を待っていて、その間に相続人が増加する可能性もあることを考えると、今現在登記しても良いと思うのです。

Q2 相続登記にはどのような書類が必要でどの程度の費用がかかりますか。

(答)相続登記には、まず、相続関係を証明する戸籍が必要です。被相続人が生まれてから死ぬまで一度でも記載されたことのある戸籍は全部取らないといけませんが、最近は少子化の影響で相続人が少ないので、ご自分で市町村役場の戸籍の係に行かれれば戸籍が揃う可能性が高いと思います。

 また、定められた様式に従って相続関係説明図を作成して、戸籍を添付して法務局に提出すれば法務局が戸籍を確認して相続関係を証明してくれる法定相続情報証明制度があります。相続関係を証明する戸籍は自分で調べるか、あるいは司法書士・弁護士に依頼して揃えないといけませんが、法務局がそれを確認して相続人はこの図のとおりであると証明してくれるのです。証明は無料でしてもらえます。法務局は戸籍まで調べてはくれませんが、使ってみると非常に便利な制度です。

 次に相続人の間で不動産を誰が取得するか協議し、遺産分割協議書を作成する必要があります。ただ、遺産分割の話がつかない場合もあるでしょう。その場合でも、法定相続分に基づく共有の登記は相続人の一人からでもできます。登記の費用としては、登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)と司法書士に頼めば司法書士費用が必要です。司法書士費用については司法書士に相談してみてください。

 相続人の共有でも良いので登記しておけば前問のとおり購入希望者から連絡がある可能性が出てきますから、実家が不良資産になる危険性が少しでも減ると思います。

Q3 面倒なので空き家のまま放置しようかとも思うのですが、そうすると私が責任を問われることがあるのでしょうか。Q1によると登記しなければそもそも私の住所を調べることができないのですよね。

(答)放置していて、周辺に損害が生じるような状態になると、あなたの責任を問われることがあります。例えば家が壊れて隣に倒れかかるようなことがあれば、隣の人は空き家の所有者に対して損害賠償等の請求ができる場合があります。こうなると隣人は住民基本台帳法12条の3の「自己の権利を行使するために必要な場合」に該当しますから登記名義人の戸籍を取得して相続関係の調査もできますし、住民票を取ることもできます。損害賠償請求するためという理由があれば、あなたの住所を調べることができるのです。平成26年には空き家対策推進に関する特別措置法が成立し、各地方自治体も条例を制定して所有者に対して是正を命じることができるようになっています。逆に自治体によっては空き家対策を取ろうとする所有者に対しては補助金を出したり、譲渡の場合の税制の優遇をしているところもあります。放置はお勧めできません。

Q4 実家の相続を放棄してしまえば責任はなくなるのでしょうか。

(答)相続を知った時から3か月以内なら被相続人の最後の住所地の家庭裁判所で相続放棄ができます。放棄する場合、不動産だけでなく、一切の財産が相続できませんから注意してください。また、相続放棄しただけでは完全に責任を免れることはできません。民法第940条に「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と定められています。あなたが相続放棄したことで相続する者に引き継ぐまで、その相続人のために管理義務を負います。つまり、管理が悪いと次の順位で相続する者に対しては、あなたは損害賠償義務を負います。ただ、この責任は次の順位の相続人に対する責任であって第三者に対する責任ではないので、隣人に損害を被らせた場合、相続放棄しても損害賠償責任があるかは微妙な問題です。相続放棄の際、空き家の状態を説明して弁護士等専門家に良く相談してください。

 不動産の放置は一方では極めて深刻な社会的な問題を引き起こしていますが、最初のご質問で述べましたとおり、不動産を取得したいという希望者もいます。非常に長期にわたって登記されなかったため登記が困難になっている不動産もありますが、逆に、今後相続や住所移転後遅滞なく登記をするようになれば、不動産の処分が促進され、不良資産化も防止できるケースも増えるのではないでしょうか。

以上