Q1 売掛先が売掛金を払ってくれないので、請求していたら、相手方は7割なら払うようなことを言ってきました。私も資金繰りが楽ではないので、7割でも払って欲しいのはホンネなのですが、私が売った商品に問題があったとか言われて憤慨しているので、どうしたものかと悩んでいます。話し合いをするうえで注意することはありますか。
(答)話し合う前に、あなた側の事情を整理するとともに相手方の事情を推測してみて、話し合う方向を考えることが大切です。取引後に値引きを要求されるようなものですから、感情的になりますが、これも取引の一つであると割り切ってなるべく冷静に対応しましょう。
⑴あなた側の事情
ア あなた側の資金繰りの状態はどうですか。
相手方からの入金が少々遅れても資金繰りが困らないなら、ゆっくり構えることができますが、かなり困るなら、早期的な回収を優先せざるを得ないでしょう。
イ 商品に問題があるという相手の言い分に理由があり得るのでしょうか。
もし、相手の言い分に相当な理由があるなら、譲歩も考えざるを得ないでしょう。相手の言い分に理由があるかについては、弁護士等専門家の意見を聞くことも大切だと思います。
ウ いざとなったら回収できるような相手方の財産を、あなたは具体的に把握しておられますか。
相手方の取引銀行を把握しているとか、どこにも担保に入っていないような不動産を知っているという場合には、強気の交渉も可能ですが、何を持っているか全然知らないということになると、回収できるかどうかはとりあえず相手方が支払うかどうかにかかっている面がありますね。
エ 取引について、相手方が署名した書類等相手方が作成した裏付け証拠があるのでしょうか。
相手が真実作成した注文書や納品書等証拠があれば、裁判になっても有利ですし、相手方の財産を仮差押する等迅速な法的手続きが認められることがあります。このような手続きができるのであれば交渉は有利に進められますが、そのような証拠がないなら譲歩するしかないかもしれません。
⑵相手側の事情
ア 実際は資金繰りに困っているが、それを明らかにすると経営危機を発生させかねないという状況にある場合と、資金的にはゆとりがあるが、本当に商品に問題があるから言い分を言っているのとでは、相手方の交渉姿勢も全然違います。なぜこんなことを言っているのか、できる限り情報を収集する必要があります。
イ ポーカーと似たところがありますが、相手方があなたに自分の財産を把握されていると考えているかどうかも推測してみてください。把握されていると考えていれば、相手方もそう強気ではいられないはずです。
Q2 合意を成立させる際に注意することは何でしょうか。
(答)民法第695条に「和解」という規定があり、「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。」とされています。
⑴解決しようとしている紛争の範囲をきちんと確認してください。
例えば、あなたは相手方との間の3回の売掛取引のうち1回分だけについて7割にしてほしいと言われていると考えていても、相手方は3回分全部7割にして欲しいと考えているかもしれません。明確に「この取引だけの問題ですよね」「他の取引は全部期限に払うんですよね」と交渉の一番最初に紛争の範囲を確認し、合意する際の文書にこれは必ず書き込んでください。
⑵全部払うけれども7割払ったら残り3割は免除するということなのか、そもそも7割しか払わないのかこれもきちんと合意してください。例えば100万円の売掛金の全額の支払い義務があることを認めて、7月末日までに70万円支払った場合に限り残り3割は免除するという合意なら、7月末に、例えば40万円しか払わなければ、3割免除の条件を満たさず、相手方は100万円支払う義務を負ったままなので後60万円支払わないといけません。しかし、70万円の支払い義務しか負わないという合意なら、7月末に40万円しかくれない場合、後30万円しかもらえません。大変な差です。全額の支払い義務があることを認めるかが争いになってしまった場合、7月末に70万円の現金を持ってきてもらって、その場で「70万円の支払い義務があることを認め、本日この場で支払った」という合意をする方法もあります。相手方としては、30万円は支払い義務がないことを認められたので自分の主張が通ったと考えることができ、あなたは当日70万円受領できるというメリットがあります。これこそ「互いに譲歩」です。
⑶合意の際は、気分を重視して言葉を選ぶより、誤解のないように明確な言葉で協議し、合意することを重視していただきたいと思います。
Q3 相手方の財産はどうやって調査するのでしょうか。
(答)相手方の財産は個人情報ですから、こちらから調査することは難しい!ということを肝に銘じておいてください。こちらからは基本的には分からないのです。相手方の財産状況も聞かずに掛け取引をした場合、自発的に払わないなら回収を諦めざるを得なくなる危険性が高くなります。ご自身の企業規模に照らして、「諦める」という覚悟ができない金額の掛け取引をされる場合は、取引相手から財務諸表の提出を求める等、取引に先立って相手方の資産に関する情報を求めるべきだと私は考えています。
Q4 「和解」と「示談」はどう違うのですか。和解をする場合様式はあるのでしょうか。
(答)示談は法的には「和解」そのものです。何時、何について誰と誰が何を合意したか分かれば様式や書面の名前に決まりはありません。
ただ、公証人役場で公正証書を作成してもらえば、判決と同様の効力がありますので、特に分割払いの時、支払ってくれなくなったら強制執行もできます。費用はかかりますが、公正証書の作成をおすすめします。