訪問販売の功罪

Q1 私は店を構えて日用品の販売をしているのですが、集客の減少傾向が続き、お客様の自宅への訪問販売を検討しています。訪問販売については、いろいろトラブルも聞いており、チャレンジするべきか悩んでいます。訪問販売を行う上で法律上注意すべきことは何でしょうか。

(答)高齢者が訪問販売で詐欺にあったり、とんでもない多量の商品を購入していたりするトラブルがあり私も多数の相談を受けています。訪問販売で、大切な老後の資金を失ったとの相談を受けると本当に心が痛みます。招かれもしないのに、訪問する販売は禁止すべきではないかという意見すら出ています。しかし、同時に、自分では電球の交換ができないため、お金はあるのに薄暗い部屋で生活しておられる一人暮らしの高齢者と接したことがあります。その人の自宅はカーテンも家具もボロボロでした。福祉サービスでの対応も考えられるかもしれませんが、商売でのサービスが行き届いていないことを残念に思いました。高齢者にサービスを提供したり目を配るのは福祉だけでは到底行き届かないでしょう。事業者が、本来の「商人道」の精神で、適切な利益を上げながら、高齢者のところを訪問して目を配るとともに、豊かな生活・商品を提供するべきではないでしょうか。

 訪問販売についての基本的な法律は「特定商取引法」です。もともと「訪問販売法」という名称でしたが、訪問販売以外に問題のある商法を取り込んで規制したため、いろいろな商法を規制しているという意味で平成12年に「特定」商取引法という名称に変わりました。

 訪問販売については、クーリングオフ制度があり、販売してからも、8日等一定期間はお客様の考えで契約を解消できて、商品が返品できるようになっています。そうすると事業者の側としても、訪問販売は危険だという気持になります。しかし、お客様から注文を受けて持っていくことや、次のような要件を満たす典型的な「ご用聞き」についてはクーリングオフは適用されません(特定商取引法26条5項2号、特定商取引法施行令8条1号)。

ア ご自分で店舗を持って商品等(クリーニングのようなサービスの提供も同じです)を販売している業者であること

イ 定期的に巡回訪問していること。週でも月でも顧客台帳等に基づき計画的に訪問しているということです。

ウ 「これを買いませんか」と特定の商品等を勧誘しないこと。「何か必要なのはありませんか」と用を聞くということです。

エ 販売する商品には特に限定はありません。みそ、醤油のような日用品だけでなく、電化製品でもご用聞きはできます。

Q2 私が販売を考えている商品は1個500円程度です。少額の商品や消耗品でもご用聞き以外で訪問販売すればクーリングオフされるのでしょうか。

(答)次のようなものはクーリングオフできません。

ア 使用若しくは一部の消費により価額が著しく減少するおそれがある商品として指定されている商品(特定商取引法施行令6条の4・化粧品や履物等)で、これを使用したり消費したとき以前は、クーリングオフできる商品が指定されていましたが、今では逆にクーリングオフできない商品が指定されていて、指定商品以外は、クーリングオフできることになっています。でも、「あっ、そうか。すぐに使わせればいいのか!」などと考えて、例えば「試しにお使いください」などと言って、販売と同時に使用させても、クーリングオフはできます。

イ 対価の総額が3,000円に満たないとき(特定商取引法施行令7条)

 どちらに該当しても、日常生活に必要な分量を著しく超えて販売したり、商品の効能等について不実のことを告げるようなことをすると、契約の解消ができる制度も平成21年に作られました。

 「この方法ならクーリングオフできない」と分かると、その方法でクーリングオフを避けようとする人が出てきて、さらに細かい規制が作られるというイタチごっこです。法律で、あらゆる場合を、徹底的に細かく規制することは困難ですし、好ましくもないはずです。落語のマクラで「町々の時計になれや小商人(こあきんど)」というのがありました。良心的な訪問型商売が広がれば良いのになあと私は思います。

Q3 訪問したら、高齢者が一人で暮らしておられ、「判断力は大丈夫か」と思うような人と会ったことがあります。一人できちんと生活していても、法的な判断能力はないこともあるのでしょうか。

(答)法的な判断能力と、一人暮らしする能力とは別のものですので、一人暮らしがきちんとできているからといって、契約等をする判断能力があるとは限りません。自分の経歴や過去の仕事の話はでき、きちんと料理も片付けもできても、「今は何時ですか」とか「今日は何月ですか」と聞くと笑って答えられない人がおられます。「時間等の見当が付かないこと」が認知症の一つの特徴だそうです。親族等からの申立を受け、「事理を弁識する能力を欠く常況」であると家庭裁判所が認めると、後見人が選任されますが、それでも自宅で一人暮らしされている方もいくらでもおられます。そのような方のお金は後見人が管理していますが、日常の小口の支払いや買い物は自分でしていただいていることもあります。「おかしい」と感じたら、取引はしないでください。