事業を譲り渡すときの初歩的な注意点

Q1 私は父親から会社を引き継いで経営してきたのですが、子供も東京に行ってしまい会社を引き継いでくれないので、会社を譲渡しようと考え仲介会社に頼みました。価格の折り合える購入希望者が現れたのですが、契約する上で注意することはありますか。

(答)まず第一に非常に重要なのは、あなたが保証している一切の負債の保証人からはずしてもらうことです。事業譲渡した後、保証債務が残ってしまうと、譲渡してしまった会社がその債務を払ってくれない場合、あなたが支払うことになります。譲渡代金をいくらもらっても保証債務を支払えば譲渡代金が減額されたのと同じことになります。事業譲渡をした後、保証債務を消滅させてもらえないため、結局債権者から請求されて支払うことになったという相談を何件も受けてきました。
 なぜそうなるかというと、約束したら当然実行されると思い込んでしまっているからです。保証債務を消滅させるのは契約上買主の義務とされていますが、しかし、契約しても約束を実行しない人が社会には存在するということを肝に銘じておく必要があります。一方、買主側の立場に立つと、会社の支配が確実になるまであなたを保証人からはずしたくないのも事実です。買主が会社を完全に支配できると同時に売主は確実に保証人からはずれるよう、しっかり手順を考えて事業譲渡を進めないといけないのです。支配権が移ると同時にあなたが確実に保証人ではなくなるよう手順を確認してください。

Q2 譲渡の契約を見ると決算書に過誤があった場合は、それによって発生した損害を売主が賠償するということになっています。買主が資産査定をしているのに、こういう条項を付けないといけませんか。

(答)買主が正確な資産査定をするには売主が提供する決算の情報が正確でなければいけません。決算が正確かどうか分かるのは経営してきた売主で、買主には完全には分かりません。決算書が正確であるというのは一体どういうことかきちんと理解しておられますか。例えば在庫ならば「本当にあるか」「いくらか」は必須です。譲渡しようと考えたら、棚卸しをきちんとやってまず数を確認する必要があります。次にそれはいくらと評価できるのか考えなければいけません。数日で全部売ると考えれば、いわばタタキ売ることになりますから非常に安く評価するしかありません。普通に経営している時のペースで売却するなら相当な価格になるはずです。また、もう売れないと見ざるを得ない不良在庫もあるかもしれません。このように数の確認、販売の期間の想定、本当に売れるのかといった観点まで含めて評価するのが在庫の査定です。売掛金も同様で、売掛先が破産しているのに売掛金として決算書に残しているとするとこれは粉飾という批判を免れません。回収可能性を考えて売掛金の査定をしないといけません。その他トラブルになっているものがあれば、それも事業のマイナス評価となりますので買主に正確な情報の提供をすることが必要です。

Q3 譲渡契約の仲介業者は専門家だと思いますが、私も仲介業者とは別に誰か専門家に相談した方が良いのでしょうか。

(答)事業譲渡は本当に多数の法律がからみます。また、従業員にとってもあなたにとっても一大事でしょう。あなたの立場で考えてくれる弁護士にも相談することも考えられてはいかがでしょうか。

以上