カスタマーハラスメント(カスハラ・お客様からの著しい迷惑行為)対策の基本的な考え方

Q1 私は商品の販売店を経営しています。 最近カスハラという言葉を聞きますが、先日、商品にキズがあったということで、職員が数時間にわたり苦情を言われました。職員は退職したいと言っています。お客様のこんな行為は違法ではないのでしょうか。

(答)お客様が、仮に本当に被害を受けたとしても、苦情や要求の手段が「社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱した」場合は、権利があるとしても恐喝等の犯罪になることがあるとするのが最高裁の判例です(最高裁昭和30年10月14日判決)。長時間店頭で要求を続けたり、土下座させるようなことは、まさに社会通念上一般に忍容すべきものではありませんから、権利があっても犯罪となる場合があるのです。以前テレビドラマで「やられたらやり返す。倍返しだ。」というセリフが流行ったことがありますが、やり返すのも程度を超えれば違法になります。お客様の要求が法的に正当であるのかは最終的には裁判で決めるしかないことです。日本は法治国家ですから、いくらお客様に権利があるかもしれないからといって、不相当な手段での要求は許されません。
 ただ、どういう場合に不相当な行為と考えるのか人によって違います。数分苦情を言われたからと言って限度を超えているとは言えない場合が多いでしょう。そうすると事業者として、職員に「これは程度を超える」という判断基準と断り方を示しておかないと、ある職員は、あなたから見れば、十分に話を聞くべきお客様の行動に対しても、一切聞かずに追い返すようなことをしてしまったり、逆にある職員は直ちに断わるべきお客様の言動に従ってしまい、不当な要求に応じてしまうことになりかねません。職員としては、社長から「対応が間違っている」と言われてしまえば、叱られることもありますし、場合によっては懲戒されることもあるのですから、基準を示してもらわないと安心してお客様への対応をすることはできません。そこで、令和2年1月、厚労省は事業者に対して、カスハラの対応の体制や防止のための取り組みを行うよう「要望」しました(令和2年厚生労働省告示第5号)。労働施策総合推進法ではセクハラやパワハラの対策は使用者側の「義務」ですが、カスハラ対策は義務とまではされていません。しかし何の方針も示されないと対応しなければならない職員としては非常に深刻なことになります。例えば次のような方針等を定めて職員に示してはいかがでしょうか。
○大きな怒鳴り声をあげるお客様に対しては、はっきりやめるように求め、録音し、やめなければ退去を求める。
○対応できないと言っているのに長時間にわたって居座ろうとするお客様に対しては、退去していただいた上で文書等でご意見をうかがうこととし、退去を求める。
 その他、110番することも含めた対応方法を職員に示しておくべきでしょう。なお、警察が来ても警察官には退去させる権限はありませんから、警察官の面前でお客様に対して「お帰りください」と職員がはっきり言う必要があります。そう言っても帰らなければ不退去罪という犯罪が成立しますので、警察官は帰るように指導することができますからこれも職員に教えてください。カスハラへの対応例については厚労省が「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」をインターネットに公表しています。具体的な対応例がいくつも提案されていますので、ぜひご一読され参考にして、御社としての対応方針を作成していただきたいと思います。

以上