Q1 先日、雑誌を読んでいたら「やさしい法律解説」というコーナーに「自然人が…」と書いてありました。ところで「自然人」とは何ですか。
(答)「しぜんじん」と読みます。教科書的に言うと「自然人とは私達生身の人間のことで、人には法律の規定によらないと作れない法人があるので、これと区別するために生身の人間には自然人という言葉を使っています。」ということなのですが、なかなか分かりにくい説明です。法の世界では「人」が主役ですからあらゆる法律問題の説明に前提として必要なことですので、今回は人、自然人、法人という言葉に絞って説明させてください。
私達は「今日は暑いですね」と言い「私は今日は暑く感じている」とはあまり言いませんよね。日本語では主語を省略すると言われますが、法は基本的に誰かが何かをすることを取り決めるものですから、「誰が」という主語こそが根本的に重要で省略できません。そして法律で主語であるのはまず大半は「人」だと思います。私は法律の条文を読む時はこの条文は誰が何をするのか、誰に何をしろと言っているのかを考えながら読んでいます。
それでは、法律で言う人とは何でしょうか。文学や哲学では非常に深い話だと思うのですが、法の観点からすれば「人とは権利を有し、または義務を負うことができる存在」です。「権利を有し、または義務を負うことができる」というのは一つの能力ですから「権利能力」と言います。私人の関係に適用される最も基本的な法律である民法の冒頭である第1編・総則の第2章のタイトルは「人」で、その第一節が「権利能力」です。まさに法の1丁目1番地にある言葉なのです。ところが権利能力とは何かという定義はどこにもなく、民法第3条の規定は「私権の享有は、出生に始まる。」です。ここに権利能力という言葉は使用されていないのですが、生身の人は生まれながら全員権利能力があるという意味であると当然のこととして解釈されています。
それでは、権利能力のある存在は生身の人間だけなのでしょうか。人の集まりや財産自体が特定の生身の人間とは別に独立して実際に活動しています。株式会社がそうですね。こういうふうに生身の人間以外に独立して活動する存在にも社会の進歩の中で「人」と並ぶ権利義務を認めるようになりました。これを「法人」と呼んでいます。つまり「人」には生身の人間と法人がいることになっています。法人については民法第33条で「法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない。」と定められています。このように権利能力がある人には生まれながら権利能力を有する生身の人間と法律で作られた法人がいますので、人の中で生身の人間を自然人と呼ぶことにしました。
ここで詐欺の話です。詐欺の加害者である実行犯が自然人であればその人には権利能力がありますので、権利義務を負います。法人が実行犯であれば、法人に権利義務が生じます。
「人」は法律の第一歩ですから、詐欺被害防止でも第一歩です。電話やメール、あるいはネット上、例えばYouTubeなどで「いい投資がある」と言われて契約し、お金を支払ってしまうことがあります。支払う前に落ち着いてください!相手は誰なのですか。相手は権利能力のある自然人か法人のはずですが、相手の住所・氏名・連絡先はリアルに分かっていますか。「お金が送金できるのだから、当然リアルに分かるよね」などと考えないでください!送金先の銀行が実在していて、送金した時には預金者が存在しているとしてもすぐに預金口座を解約されてしまえば、その人はどこに行ったか分からなくなります。違法ですが、他人の名前で預金口座を作っている人もたくさんいるそうです。
どんな場合でも、お金を払う前に相手という「人」はどこの誰か、それはその住所に存在しているのか確認してください。
詐欺事件の場合、被害回復が難しいのは、リアルに相手が誰か分からないことが一つ大きな原因です。取引を検討する場合は相手とリアルに出会い、今後も追って行けるのか確認をすることが最低限必要です。それが確認できなければ、そもそも取引をしてはいけません。確認できたと思っても契約する際やお金を払う前に消費生活センターや弁護士に相談してください。
以上