「会社法」を考える ―資本金は1円でも株式会社が設立できる

Q1 資本金が1円でも株式会社が設立できるそうですが、会社は有限責任なので、取引については会社しか責任を取ってくれませんよね。有限責任なのに資本金が1円で良いこととされているのは何故ですか。

(答)取引先の株式会社が売掛金を払ってくれないという相談を受ける際に、「この会社の資本金は 100 万円なので 100 万円は持っていますよね。それを差し押さえましょう」と言われることがよくあります。実はこれは大きな誤解で、株式会社は資本金を会社の資産とは別にどこかに預けておかないといけないということは全くありません。また、資産から負債を引いた金額が資本金を下回ったら法的に経営を継続させないという規制もありません。
 資本金の最低額を定めるべきかということは学者の間でも大変な議論がありました。今の「会社法」は 2006 年5月に施行されたもので、もとは商法の「会社編」と「有限会社法」だったのですが、1990 年までは有限会社の最低資本金は 10 万円で株式会社には最低資本金の定めはなく、事実上資本金 35 万円以下の株式会社は設立できなかっただけです。ところが、最低資本金を定めるべきだという意見が主張されたので、1990 年に株式会社については 1,000 万円、有限会社については 300 万円が最低資本金とされました。私は 1985 年に弁護士になり、この時点で弁護士として相談を受けました。当時起業しようとする人がこれだけの資金を集めなければならないことで困った記憶があります。また、1996 年までに資本金を増額するように対応を求められ、組織変更等の改善をしない会社は解散となりました。資本金の金額を会社が確実に持っている保証はそもそもないのですから、これでは経済活動が沈滞するだけだという批判が強く、現在の会社法が作られる際には最低資本金制度は撤廃され、資本金1円でも株式会社を設立することができるようになりました。要するに株式会社を設立し易くしようということでしょう。

Q2 1円で良いなら、資本金などという制度はそもそも必要ないのではないですか?

(答)資本金は株式会社が返済する必要がない決算上の費目ですから、この金額が大きいということは取引先として一つの安心材料でしょう。話は大きくなりますが、政府が企業を救済するのに資本金を注入すると言われると安心感がありますね。ただし、何度も言いますが、資本金があるからと言ってそれを資産として別枠として保有しているわけではありませんから、それだけで信用できるものではありません。売掛金の発生が大きくなるような取引をされる時は、相手の決算書を確認させてもらうという慎重さを持つことが大切です。
 また、資本金として出資する場合は必ずそれだけの資産を拠出しないといけません。払込をしていないのにしたとして資本金の登記をすれば、刑法 157 条の公正証書原本不実記載等の罪に該当し5年以下の拘禁刑又は 50 万円以下の罰金に処されることがあります。
 また、概ね〈資産から負債を引いた金額〉から〈資本金や準備金の額の合計額〉を差し引いた金額を超える金額がないと株主に分配できません(会社法 446 条・461 条)。これを分配可能額と言いますが、これに違反して株主に配当をすると会社法 963 条5項の「法令又は定款の規定に違反して、剰余金の配当をしたとき」に該当しますので、5年以下の懲役又は 500 万円以下の罰金又はその両方が併せて科されることがあります。分配可能額については法務省令等を確認する必要がありますので、株主に配当等で資金を渡す時はこの基準を税理士さん等に良く確認してください。
 また、会社法 458 条の規定により,そもそも純資産額が 300 万円を下回る場合も資産を株主に分配できません。有限責任なので株式会社から資産を流出させることについては規制しています。有限責任ですから、株式会社と取引するには決算書が非常に重要です。
 次回は決算書の基礎を紹介したいと思います。

以上