Q1 私は80歳で、妻も子もいません。一人暮らしです。一定の財産はあります。ただ、兄弟とも疎遠で、自分が死んでしまったらどうなるのだろうと不安です。どうしたいのか自分でも頭の整理ができません。誰にどう相談すれば良いのでしょうか。
(答)何か分からない状態で良いですから、弁護士、司法書士等や市町村等の公的相談窓口をたずねてみられてはいかがでしょうか。私は高齢者の相談をお受けしているうちに、そもそもご自分でも何を相談したいのか定まっていないことが多いことに気づきました。何を相談されたいのかという問題も含めていっしょに考えないといけないと思うようになりました。相談を受ける側でも、法律分野と介護分野等分野の垣根を超えて考えなければいけないことや、何を相談したいのかということそのことから整理しながら聞かせていただこうという意見が出ています。相談を受ける側も変わってきていますので、自分は何が聞きたいのだろう-という漠然とした状態でも、公的な相談会に出向かれてみてはいかがでしょうか。相談に来ていただけば次のようなお話をすることが多いのですが、いっしょに考えさせていただいています。
⑴ご自分の財産をどうするか指示するために遺言をされてはいかがでしょうか。遺言をするなら、公証人役場で公正証書で遺言しておく方がきちんと保管されるし、良いと思います。あなたの場合、遺留分を主張できる親族がいませんから、全く自由に誰にでもご自分の財産を差し上げることができます。
⑵誰かに自分の死後にして欲しいことを任せる契約をしておくこともできます。例えば、誰かに納骨や葬儀の費用を預けておいて、納骨や葬儀をしてもらうよう契約をすることができます。
⑶実は、あまり気づかれないのですが、これらよりもっと大切なことがあります。自分が遺言した相手の人や死後のことを依頼した人に自分が亡くなったことが伝わるようにしておかないといけないのです。あなたが亡くなった場合、行政は近親者を調べて連絡することがありますが、他人には連絡しません。他人に自分の死後のことを頼んでおいた場合、亡くなったという事実がその人に伝わるような工夫が必要ですし、その人があなたの納骨等の依頼を受けている場合、そのことが行政に伝わらないと、その人には遺体を渡してもらうことができず、頼んだ意味がなくなることがあります。例えば、警備保障会社には、契約しておけば、緊急事態を探知した場合、指定した者に連絡するというサービスを提供しているところがあります。入院先の病院や介護施設等に緊急連絡先を知らせておくことも大切です。相談に来ていただければこんなこともお知らせできます。
Q2 私は85歳で、夫は10年前に亡くなり、一人娘は結婚して、遠方に住んでいます。娘は今60歳です。私は一人暮らしです。今のところ健康なのですが、ごく最近、財布をどこかに置き忘れ、見つからないことがありました。自分でも認知症ではないかとの不安があります。判断能力が衰えたり、病気になったときに備えてどのようなことを準備しておけば良いのでしょうか。
(答)前問のとおり、公的機関での相談をおすすめします。特に、あなたが住んでおられる地域の地域包括支援センターが良いと思います。市町村に電話で聞かれれば、どこに地域包括支援センターがあるか分かります。地域包括支援センターは介護保険法で定められた、保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行い、住民を支える総合的な相談窓口です。今、すぐに困っていないと思われていても、地域包括支援センターに相談に行って、ご自分の子供さんの連絡先やあなたの日常的な生活情報を把握してもらっておけば、先々具体的に支援が必要になったとき、地域包括支援センターが動きやすいと思います。
Q3 私は60歳で私の父(88歳)は、姉、父、弟の3兄弟です。父の姉(伯母)は独身で子供もいません。伯母はかなり遠方の街に一人で住んでいます。伯母は90歳、父の弟(叔父)は85歳です。伯母は父とは仲が良く、年に数回は電話をしあっています。伯母は高齢で弱ってきているらしく、父から「なんとかしてやってくれ」と言われているのですが、伯母について私に何かできることがあるのでしょうか。
(答)「何かできることはないか」と考えていただけるのなら、行くのが大変かもしれませんが、一度伯母さんに会ってみられませんか。伯母さんはどんな方と交際し、どんな生活をされていますか?日常の生活状況をあなたに知っておいていただくことは実は非常に意味があります。そして伯母さんのおられる地域の地域包括支援センターに行って「自分という姪がいる」ことを情報提供しておいていただけませんか。
伯母さんの判断能力が衰えた際、有効な支援方法は後見人や保佐人を選任してもらうことです。しかし、これは、自然に選任されるものではありません。誰かがそれに気付いて選任の申し立てをする必要があります。そして、これを申し立てることができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族です。法律には検察官も申し立てができるとありますが、検察官が気付くことは稀なので申し立ては期待できません。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2で市町村長にも申立権があり、これは相当実施されていますが、親族が申し立てをするのが原則なので、市町村長が必要を感じても親族の意向調査に時間がかかります。地域包括支援センターが、あなたという心配している親族がおられることを把握していれば、対応が必要な際、市町村は少しでも早く対応ができます。また、その時、伯母さんの生活状況をあなたが知っていれば、ご本人の希望に沿った後見業務等を行うことができます。
相談者:伯母は私の父と電話で話ができているのですから、判断能力は大丈夫だと思っていますが、そうでもないのですか。
山 元:会話ができるから判断能力があるとは言えません。判断能力が衰えていても、相手に合わせて話をすることはできるようです。私は、ある事件で、小学校時代からの自分の経歴を話してくれた高齢者がいて、判断能力は十分あると思ったのですが、「今、おいくつになられましたか」と聞いたら「歳取ったからね。いくつだったかね」とか、「今日は何日でしたかね」と聞いたら「そんなこと聞いてどうするの」とか、不思議な応答をされたので、念の為、診察を受けてもらったら「判断能力なし」との診断を受けたことがあります。それ以来、私は、このような基本的なことについてごまかすような会話になったら、判断能力に疑いを持つようにしています。