相続が開始すると
被相続人の預金がおろせなくなることがあります

Q1 私の友人の父親が亡くなった時、父親の預金がおろせなくなり、治療費の清算や葬儀費の支払いにも苦労したと聞きました。私も80歳の父がいるのですが、どうしておけば良いのでしょうか。

(答)被相続人が亡くなると同時に全ての相続財産は遺産として、相続人の「共有」という状態になります。従って、被相続人が亡くなると同時に法的には預貯金も含めてあらゆる遺産は全相続人の承認がないと一切処分ができなくなります。金融機関側としては、預金者が死亡したことが分かると、全相続人の同意がそろうまで、預金をそのまま預かるしかなくなってしまいます。つまり、ご友人がおっしゃるとおり、預金がおろせなくなるのです。そして、預金をおろすためには、「全ての相続人」は誰かを確認できる戸籍をそろえ、かつ全相続人の同意を得て解約することになります。戸籍が複雑だったり、相続人の間で話がつかないと数ヶ月かかることもあります。相続の事実を誰も金融機関に伝えなければ、死亡の事実は当然には金融機関には伝わりませんから、これまでとおり預金はおろせますが、後で相続人間で紛争になることがあります。これを防止するため、次の2つの方法をお勧めします。

(1)葬儀等をしてくれる相続人に、特定の預金を「葬儀費や治療費に充ててください」として遺言で遺贈しておくことです。この場合は遺言は公正証書でしておいてください。面倒と思われそうですが、全部の遺産についてどれを誰に渡すか考えるより簡単ですし、このような問題を防止できます。

(2)葬儀費用等を特定の人に現金で生前に預けて、葬儀や治療費等の清算を依頼しておく。この場合も、税務署から「贈与」と言われないよう書面にしておくべきです。

Q2  「相続したら共有になる」というのはどういうことですか。相続財産は誰のものになるのですか。相続人が何も手続をしないと、誰も相続していない状態になるのではないですか。

(答)相続が開始すると、相続人がいれば、相続財産は相続が開始した瞬間にいきなり相続分に従って相続人の「共有」という状態になるというしくみになっています。相続財産には「誰も所有者がいない」という状態は1秒もないのです。しかし、だからといって、直ちに処分できません。まず、①3か月以内は相続放棄ができますから、この間、相続放棄するか悩む人がいると相続人が確定できませんから、処分できません。また、②「共有」ですから前問のとおり全相続人が同意しないと財産が処分できません。これについて、預金のように金額で相続分に分けられる財産については、最近まで、共有でも相続人が自分の相続分だけは解約して取得できると考えられていましたが、平成28年12月19日、最高裁判所は大法廷決定で、預金も遺産分割協議が終わるまで、自分の相続分だけでも解約することはできないとの判断を示しました。例えば100万円の預金があり、相続人が子供4人だとして、これをおろすという協議が相続人の間で成立しない場合、一人だけで25万円おろすことはできないこととなりました。

Q3  私は両親とは離れて住んでいるうえに、両親がどこにどんな財産を持っているか全然知りません。相続の時には全部分かる方法があるのでしょうか。

(答)当然分かるような方法はありません。預金等がありそうな金融機関等の目星を付けて、自分が相続人であるということを戸籍で証明して、問い合わせるしか方法がありません。家で通帳が見つかればそこに行けば良いのですが、それがないと預金のありそうな金融機関に片っ端から戸籍を持参して聞い合わせをすることになります。どこにあるか分からないことすらあります。

 ご両親に、預金がどこにあるかとかその預金通帳を見せてくれというのは案外言いにくいものです。子供が親の財産を勝手に使ってしまうという「経済的虐待」の事件もあり、子供は「親の財産を知るべきだ」とも言いにくいものがあります。「親の財産を調べてほしい」という相談もありますが、子供だからといって、金融機関は親の財産を回答しません。しかし、親の判断能力が落ちてくると、オレオレ詐欺等特殊詐欺に遭ってしまうこともありますし、全く必要ないものを大量に買ってしまい、客観的にはものすごい無駄遣いをしてしまっていることもあります。判断能力が落ち、認知症等病的なものである場合、ご本人にその自覚がないことが少なくありません。後見等の親の財産を管理する制度もありますから、親の様子を見て、どこにどんな財産があるか程度は聞いてみることも大切でしょう。

Q4  会社等法人で代表者が亡くなった場合、法人の預貯金等はどうなるのでしょうか。

(答)法人の財産は代表権のある者が処分できます。代表者が死亡しても、他に代表権のある者がいるか、代表者が変更できるなら何の問題もありません。
 ただ、小規模企業の場合、代表取締役が一人で、株主も代表者一人のことがあります。この場合、株式が相続されますので、相続人全員で株主総会をして取締役を選任し、代表取締役を決めるまで、会社の財産が処分できなくなります。相続人間の協議に時間がかかるようであれば、裁判所に申し立てて一時取締役等の職務代行者の選任をしてもらうという方法もありますが大変面倒な手続です。
 ワンマン社長が亡くなってしまい、小切手すら発行できなくなることも現実にあります。ワンマン社長を自認しておられる方は、万一に備えて対応策を弁護士等専門家に相談しておいていただきたいと思います。