この人は誰?-架空請求被害に遭わないために

Q1 全く身に覚えがないのですが、こんなメールが来ました。

「有料動画の未納金が発生しております。本日中にご連絡が無き場合、法的手続きに移行いたします。甲(株)相談係(注:ここは仮名です。実際に住所も書いてありません)03-×××-××××」電話して何のことか確認しようと思いますが、注意することがありますか。

(答)そもそも電話しないでください。最近、このような文面のメールやSMS(ショートメッセージサービス)が来たという相談を何件も受けました。具体的な請求根拠の記載がないことが特徴です。本当に請求するなら、最低でも◯月◯日に◯を利用されましたと書いてあるはずです。さらに「甲(株)」というのは実際は誰でも名前を知っている有名な会社名なのですが、表記が少し違っています。有名な方がyamamotoとすると、メール等を送っているのはYAMAMOTOというような微妙な違いです。有名な会社の公式ホームページを確認しましたが、「相談係」はありませんでした。

 メールは、123@** 124@**というように適当にアドレスを作って、大量に送ってしまうこともできるそうです。SMSは電話番号なので同様です。このメールの送信者がそのようにして大量にメール等を送っている場合、送信者は、送信先が実在しているかどうかすら知らないのだそうです。その1通がたまたまあなたに届いたものであった場合、あなたが、わざわざ電話したら、あなたという連絡先が実在していることを送信者は知ってしまうことになります。あなたの存在をあえて送信者に教えるようなことはしないでください。

Q2 しかし、「甲」から裁判でも起こされたら費用も手間もかかるのではないですか。私は正直に言うと変な画像も見たことがあり、全然身に覚えがないわけでもないので、電話して、説明して適正に払うべきものは払った方が良いのではないかと思うのですがいかがでしょうか。

(答)そもそもこのメール等の送信者は、あなたが電話しない限りあなたという人がこの世に存在することすら知らない可能性が極めて高いと思います。連絡してしまうと、相手にあなたの存在を知らせてしまう危険性があります。連絡するべきではないと思います。

Q3 無視するべきではない連絡もありますか。それはどんなものですか。

(答)裁判所からの文書連絡、あるいは、裁判所を名乗る文書連絡だけは、無視しては絶対にいけません。裁判所がメールを送ることはありませんからメールなら無視してください。文書であっても「裁判所からだ!」と驚いて、いきなりそこに書いてある連絡先に電話しないでください。実在する簡易裁判所の名前を騙って、全く架空の「命令書」が送られたことすらあります。ただ、これも電話してしまうと、相手に、あなたが存在していることが知られることになります。

 しかし、これだけは「なんだウソか」と思って無視してはいけません。簡易裁判所から真実の「支払督促」が多数発出されたという事件がありました。支払督促というのは簡易な債権の回収手続きとして、債権者の申立だけで一方的に裁判所が支払い命令を出す制度です。債権者の一方的な申立で発出され、逆に債務者の方も受け取ってから2週間以内であれば、何も言い分がなくても簡単に異議を出すことができ、異議が出れば無条件に支払督促は効力がなくなるのです。

 債務者に異議がないなら、債権者に、ごく簡単に判決と同様の権利を与えようという制度なのですが、これを悪用して、権利がありもしないのに支払督促の申立をしたという事件が本当にありました。

 このようなこともありますから、仮に身に覚えがなくても、「裁判所」と名乗る通知が来たら、2週間以内に必ず無料相談等を利用して弁護士に相談だけはしてください。

 つまり、裁判所と名乗る文書の通知だけは、第1に裁判所の名前を騙るものもいますから、応答してはいけませんが、第2に裁判所が本当に発出していることもあるので無視は絶対にせず、面倒ですが相談に行ってください。裁判所の名前まで使う者がいるなんて、恐ろしい時代になったものだと思います。

Q4 私は「〇△研究所」と名乗るところから、セミナーを受けないかという電話勧誘を受け、はっきり断らなかったら、受講料を請求されたことがあります。払わなかったら「訴える!」と言われましたが、そのまま何もなく今日に至っていますが、「〇△研究所」というのは法的にはどういうものなのでしょうか。

(答)そもそも、株式会社とか財団法人等の名称が付いていない「◯△研究所」は、他人に金銭を請求する資格がない存在である疑いがあります。

 他人に何か請求するには、その者は、権利を保有することができる「何者か」でなければなりません。権利を保有することができる存在であることを、法律学では「法人格」があると言います。人間は、全て法人格があります。これに対し、集団や財産自体にも法律で法人格を認めている場合が多数あり、これを法人と言います。会社法に定める株式会社がその典型例です。法人の場合、法人格があることが分かるようにするため、称号の中に「株式会社」「社団法人」等法人格を示す名称を用いることとなっています。「研究所」という称号だけでは法人格を示す称号とはされていません。単純な「◯△研究所」であれば、法人格がなく、金銭等の請求をする資格がそもそもない可能性が高いのです。

 法人格があることがはっきりしない名前や、有名な法人と混同するような名前の者から請求があった時は、それだけでウソの請求ではないかとの疑問を持ってください。それに限らず、疑問を感じる請求については、相手に連絡する前に消費生活センターや弁護士にご相談ください。