セクハラ問題の発生に備えて
対応を準備していますか?

Q1 当社の営業部長Aは性格的に軽いところがあり、本人の言い分では「会社の雰囲気を明るくしましょうよ」ということらしいのですが、出勤してきた女性職員のお尻を軽く触ることがあります。当社の女性職員全員から社長である私に「セクシャルハラスメント(セクハラ)です。なんとかしてください」との申し入れがありました。セクハラはAの個人的な問題なので当事者同士で話し合って解決したら良いと思うのですが、こんな個人的なことについて当社にも法的な責任があるのでしょうか。

(答)お尻を触るということは、性的な行動ですから、よほど仕事に必要等正当な理由がなければ、Aの行動はセクハラです。たんに個人の問題ではなく、御社にも法的責任は十分あり得ます。法的責任は2つ考えられます。まず、御社自体に、会社として責任があり得るということを十分自覚してください。

(1)ひとつが、御社がAを使用していることによる使用者責任(民法715条)です。民法715条は「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。御社はAを使用しています。「Aが女性のお尻を触ることなんか事業の執行ではない!」と思われるでしょうが、この「事業の執行」は広く解釈されています。御社はAを使って自分の仕事を拡張して利益を上げているのだから、Aの業務に関連する行為については責任を負うべきだということです。会社内で、Aが仕事中に行った行為については、使用者責任があると判断されることが一般的だと思います。また、お尻を触るということは、場合によっては強制わいせつになりかねない行為で、不法行為だと言われてもやむを得ないことだと思います。御社は女性に対して加害者であるAに関して使用者責任を負っている可能性が高いと思います。

(2)もうひとつは、御社自身が、従業員に対して「働きやすい職場環境を維持する義務(職場環境配慮義務)」を負っているとされていますから、放置していると御社自身にこの義務違反の責任もあり得ます。

Q2 当社にも法的責任がある可能性が高いことは分かりました。当社としては、このような相談について具体的にどう対応をしたら良いのでしょうか。

(答)セクハラについては、まず、事実の確認が必要です。なるべく早期に、社長のみでなく、総務部長等少人数の職員を同席させて次の手順で話を聞き、かつその内容を記録するべきだと思います。なお、このような苦情を聞き取る体制が整備されていれば、社長自らではなく、調査担当者が聞き取るべきです。

①女性職員から具体的に何時何があったのか聞き取る(なるべく一人ずつ聞いた方が事実は聞き取り易いのですが、一人では話しにくいという職員もいますから、相手の立場になって話し易い体制を整えて聞き取るべきだと思います)。

②次にAを呼んで社長室等他の職員が聞いていないところで事実関係を聞いてください。

 調査で双方の言い分が一致し、例えば毎日、日常的に触っていたということが分かれば、次のような対応を検討する必要があります。

(1)Aに対して懲戒処分をするか否か。戒告か、減給か。

 懲戒処分は、就業規則に懲戒規定がないとできませんから注意してください。セクハラに関する懲戒規定がないと、「会社の秩序を乱した」という一般規定で懲戒するしかありません。このように、予め就業規則の整備をしておかないとAに対して懲戒権に基づく指導ができないことがあります。

(2)Aに対して懲戒処分をしたことを社内で公表するか。

 公表はAの名誉毀損となるという問題がありますので、就業規則で公表することを定めていれば、その規則が過酷でないか確認したうえ、それに従えば良いと思いますが、そうでない場合は慎重に検討していただきたいと思います。

(3)被害者に対して謝罪・補償をするか。

 A自身に対し、被害者に謝罪するよう指導することは必要ですし、会社としてもそこまで対応を放置していたことについて謝罪すべきだと思います。補償するか否か及び金額は、セクハラの内容・程度によります。これは顧問弁護士等専門家に相談してください。調査で双方の言い分が一致せず、一方は「触られた」と言い、他方は全く否定している場合は、顧問弁護士等、第三者に事実の調査を依頼する必要もあると思います。

Q3 そうすると、このような苦情が出る前に就業規則の整備等をしておく必要があるということなのでしょうか。

(答)そのとおりです。このような問題は人が集まっている以上残念ながら必ず発生すると考えて、対応の準備をしておくべきです。厚生労働省は、男女雇用機会均等法に基づき、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上配慮すべき事項についての指針」を公表していますが、その指針の目的は「防止」と記載されています。事案の発生前に防止するよう指針を検討していただきたいと思います。

(1)指針は、セクハラについて「性的な内容の発言及び性的な行動」であって「従業員の意に反する性的言動」と言っています。お尻に触るなどということは典型的な性的な行動です。なお、セクハラの対象になる被害者は男女の性別は問いませんので注意してください。

(2)指針に求められていることを私なりにごく簡単に要約すると次の4つです。

ア 自分の会社ではセクハラは許さないということを従業員に周知・徹底してください。Q1のような行為が「軽く」行えるようではいけません。行政等でも啓発セミナーをしていますから、これを利用されてはいかがでしょうか。

イ 相談窓口を作ってください。女性職員全員で社長に直訴しないといけないようなことでは困ります。総務部長等相談責任者を決めて、内密に相談できるようにしておくべきです。

ウ 申し出があった場合に、事実確認ができる調査体制を整えてください。相談があってから社長が自分で聞き取るのでは大変です。また、加害者に適切な指導をするには就業規則の整備が必要です。規則の作り方は行政に相談されても良いし、弁護士等専門家に相談されても良いと思います。

エ 被害者がセクハラの相談をしてもプライバシーが守られ、不利益も受けないようにしておかないといけませんし、そのことを従業員に周知徹底しておいてください。

 実際にめったにないことなので(あるようでは困ります)、事件があると多くの会社が対応できず、その間に大切な職員が複数退職してしまうようなこともあります。職員にとっても、会社にとっても大変なダメージです。年1回位、会社に外部から専門家を呼ぶ等して、定期的に対策の検討会をされてはいかがでしょうか。