労働者の労働時間を
把握していますか

Q1 当社には外回りの営業社員がいるのですが、彼が実際何時間働いたのか、残業したのか把握するのは非常に困難です。彼の労働時間はどうやって計算すれば良いのでしょうか。

(答) 本当に困難であれば、労働基準法第38条の2第1項に「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」と定められていますので、所定時間が8時間なら8時間労働したものとして給与を支払うことになります。労働時間が分からないなら、所定労働時間は働いたことにするということです。ただ、最近の通信機器やITの発達等を見ていますと、「困難である」と言える場合があるのか疑問があります。例えば、その労働者が移動するのに用いる車両の運行記録を取っておられる会社もあります。メールで随時報告させている会社も一般的です。そうすると何時間働いたか実は把握できてしまうことが少なくありません。そうなると事業場の外で働いていても「労働時間の把握は困難」とは言えませんから、この規定の適用はありません。実際の労働時間をもとに時間外労働があれば時間外手当を支払わなければなりません。最高裁判所は平成26年1月24日の判決で、募集型の企画旅行における添乗員について、旅行日程があらかじめ具体的に確定されているとか、正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされているといった事情も考慮し、労働時間の算定は困難ではないとの判断を示しました。

 旅行の添乗員ですら労働時間の算定が困難ではないと最高裁が判断した事例があるくらいですから、裁判で労働時間の算定が困難であると認定してもらうことはなかなか難しいように思います。

 この判例以後、私は、むしろ、外回りの労働者にもきちんと業務報告をさせ、労働時間の管理をして、時間外手当を算定するようお勧めしています。

Q2 当社では部長級以上の者は、部下の労働時間を管理する立場にありますので、この者は時間外手当を計算していないのですが、問題がありますか。

(答) 労働基準法41条2号で、監督若しくは管理の地位にある者(「管理監督者」と呼ばれています)については労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しないとされています。従って管理監督者については、労働時間を管理する必要がないようにも読めます。しかし、管理監督者かどうかは、名称ではなく、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである」とする通達があります。「経営者と一体的な立場にある者」です。裁判例では、管理監督者だから残業代は払わなくて良いと判断されるケースはあまり多くありません。ファーストフード店の店長について「労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されている」とは言えない等の理由から、管理監督者ではないとして、残業代の支払を命じた判決があります(東京地方裁判所平成20年1月28日判決)。

Q3 当社には、専属の一人親方がいて、常時仕事を手伝ってもらっています。その人から「自分はそもそも従業員なのではないか」と言われたのですが、雇っていないのに従業員として扱うべきだとされることがあるのでしょうか。

(答) 実態によりますが、請負のつもりでいても、雇用だと認定されて給与の支払を求められることは現実にあります。その人があなたから独立していて、一定の仕事を発注し、その結果に対して報酬を支払っているなら、専属的に働いていても契約内容は請負ですから、雇用している労働者(従業員)ということにはなりません。ただ、例えば仕事があってもなくても、毎日朝9時から午後5時まで仕事をすることになっているということになると労働者と認定されることもあり得ます。最高裁平成8年11月28日判決は、自己の所有するトラックを持ち込んで特定の会社の専属で製品の運送業務に従事していた運転手について、この会社は運転手の業務の遂行に関し特段の指揮監督を行っていなかった等労務関係を検討して、この運転手は労働者ではないと認定しました。研修中の研修医を労働者と認めた判例もあり、労務の実態や指揮監督のあり方によっては、請負や委任契約を締結しているのに、労働者と判断されているケースもあります。

Q4 なかなか難しいようですが、「管理監督者」や「労働時間の把握が困難と認められる者」ということになれば、その者については、使用者側は労働時間の把握はしなくて良いのでしょうか。

(答) 最高裁平成12年3月24日判決は、労働基準法が、労働時間に関する制限を定めているのは、過労死等の危険が発生するのを防止することを目的としているという趣旨の判断を示しています。使用者は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うということです。

 この最高裁判決はこうも言っています。「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。」

 「周知」とは誰でも知っているということです。労働者が過労にならないよう配慮するためにも、どんな立場の労働者でも、できる限り労働時間を把握するよう努めていただく必要があります。